「事業のグローバリゼーション」と「組織のグローバリゼーション」

最近の円安や日本経済の縮小を受け、企業がビジネス拡大のためにグローバル市場への参入を迫られることは今や当たり前です。
そのような社会情勢の変化に応じて、自社は海外事業により収益を上げている(事業のグローバリゼーション)と言える企業は多いと思います。
一方、国内事業を担う各部署が海外とナレッジを共有し、シナジーを生んでいる(組織のグローバリゼーション)と自信を持って言えますか?

本稿では組織のグローバリゼーションに向けて、“グローバルとの境界線がない世界”の実現方法について記載します。

組織のグローバリゼーション推進の障壁

「組織のグローバリゼーション」を推進するためには、まずは障壁となるギャップを理解する事が肝要です。私たちが普段感じている文化のギャップを3つ紹介します。

①コミュニケーションのギャップ

日本では複雑で密な人間関係を保つために間接的な表現、ハイコンテクスト文化があり、それが日本語、日本のコミュニケーションにも浸透しています。
例えば、詳細設計など後工程で必要とされる基本設計書に、以下の様な記載があったとします。

本機能は可用性を担保するために、基盤・アプリケーション双方で冗長化すべきである

この文章は日本人にとっては、主語が基盤チームとアプリケーションチームで、実施すべき内容は各チームで考えられる前提で記載されているのが分かります。
ただこれを海外にアウトソースするとよく後工程で詳細検討が漏れてしまします。
これは、主語や直接的な目的語がなく読み手に補完させる高度なハイコンテクストが日本語、日本文化にはあるからです。
多少手間に感じるかもしれませんが、読み手に空気や行間を読んでもらうことを期待せず、伝え手の責任で直接的に言葉を尽くして説明する事が重要です。

②働き方のギャップ

昨今は日本企業でもWork Style Innovation(働き方改革)が浸透しつつありますが、多くの国では昔から当たり前の文化として定着しています。
日本人から見た海外人財のステレオタイプとして「言ったことをやってくれない、労働時間が少ない」と思い浮かべる人も少なくないかと思いますが、それは価値観を理解していないから生じるギャップの1つです。
日本人は「企業・組織としてやるべき事であれば言われたことは何でも責任をもってやるべき」という考え方が主流ですが、海外では「組織としての義務感からではなく自分のキャリアや職務にとって必要だからやる、それ以外はやらない」という考えが当たり前に浸透しています。
キャリア志向や働き方の自由、裁量が重視されているのです。

本組織で海外メンバーとプロジェクトを遂行する際は、案件ごとに必ずメンバーの経歴、資格、得意分野を確認してからアサインするようにしています。
日本メンバーの場合も同様なのですが、細かいアンマッチがあってもアサインする場合が多いですが、海外メンバーの場合はきちんとマッチした案件にしかアサインしないようにしています。
こうして、本人のキャリアにマッチする仕事に責任を与えて任せる事さえ出来れば、決められた時間を超えて仕事をしてくれることもあれば、言われたこと以上の働きをしてくれたという話も多くあり、多くの日本人が持っている海外の方の働き方とはイメージが違うと思います。

③組織のギャップ

最後にあげるのが組織のギャップです。
日本はジェネラリスト、多くの海外ではスペシャリストとして採用するケースが一般的であるという事をまず理解しておかなければいけません。
森本作也氏の著書『グローバル・リーダーの流儀』では、海外を「レンガ型組織」、日本は「石垣型組織」と呼んでいます。
日本では汎用的な人財を集めて必要に応じて専門性を育て、縦横複雑な連携を重視する企業文化です。
一方で海外では必要な専門人財を採用して組織を組成し、それ故に統制・レポートラインを重視しています。
そのため、リーダを介さない直接の繋がりや、専門性を活かせないアサインを忌避される事を理解するのが重要です。

組織のグローバリゼーションを推進する集団

我々デジタルテクノロジーディレクター®は最先端テクノロジを武器に顧客に最適な提案をすることをミッションとしています。
言い換えると、世界の技術トレンドを捉えるために、海外子会社と連携を強化することは重要な命題です。
当方は「組織のグローバリゼーション」を推進する集団(グローバルタスクフォース)を編成しました。

取り組みのファーストステップとして、先述した「①コミュニケーションギャップの解消」を行っています。
先ずは日本独自のハイコンテクスト文化を避けるために、自分が話したいことを話せる語学力と、相手に伝えたいことが正確に伝わる伝達力の強化をしています。

  • 語学力:自分が話したいことを話せる
    • 英語学習ツール(スタディサプリ)を導入。社員の利用状況を監視し、全体で共有。
  • 伝達力:伝えたいことが正確に伝わる
    • 海外メンバーと混成チームを作り、チーム対抗のクイズ大会を開催。(例:他己紹介クイズ)
      1. チーム内で互いに自己紹介をする
      2. 各チームから海外メンバーの代表者を1人選出する
      3. 全体の場で、選出された海外メンバーはチーム内の日本人メンバーを他己紹介する
      4. 聞き手は誰の他己紹介なのかをチーム内で議論し、一つの回答を作る
      5. 最後に他己紹介された日本人は自身の紹介が意図通りだったか振り返る

次に、組織独自の文化を思考フレームワークにより共有を行っています。
当社で共通のシステム開発標準を海外メンバーに提供し、独自のプロジェクト管理手法や、品質に対するこだわりなどを実際の成果物ベースで細かく説明しています。

最後に、互いの組織ビジョンを共有することが重要です。
当方では組織トップが自身の言葉でビジョンを発信するようにしています。
特に、聞き手の海外子会社や社員の役職によって言葉を使い分けるべきです。
当方では管理職層と若手層向けに言葉を変え、各メンバーに対する期待を直接伝えています。
その際、ただ伝えるだけでなくインタラクティブに会話するようにし、その場で認識を合わせています。
これにより、「日本の部署・海外の部署という枠組みを超えた組織のグローバリゼーションの実現」に向かっています。

コミュニケーションギャップの解消に向けた組織の活動

グローバルという境界線がない世界

当社が目指している組織のグローバリゼーションとは、“グローバル”という言葉がいらなくなる組織です。
国内人財だけではなく、グローバルな人財が集まり、国内外の境界線なくそれぞれの実力を発揮できる組織を目指しています。
これまでのグローバルタスクフォースの取り組みを通じて、1つ目のギャップにあげた、コミュニケーションのギャップは、組織内の多くのメンバーが実際に経験し、学び、ギャップを埋められるようになってきました。
今後は組織としてグローバル人財を受け入れる障壁となっている他の2つのギャップを埋めていくことで、組織のグローバリゼーションを推進していきたいと考えています。

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