はじめに

オンプレミスシステムのパブリッククラウドへの移行は、業界を問わず取り組まれています。
しかしその一方で、コスト削減を期待しクラウドに移行したのにコストが下がらず「システム移行が上手く進まない」という声も多く聞かれます。
本記事では実際にパブリッククラウドへの移行の中で直面した課題をもとに、特に注意すべき点について解説します。

リフト&シフトの課題

オンプレミスのシステムをクラウドに移行する方法としては、リフト&シフトが一般的です。
リフト&シフトは、他の移行方式と比較して初期移行のコストや期間を低く抑えることができるため、既存システムをクラウド移行する場合にはリフト&シフトを検討することが推奨されます。
ただし、リフト&シフトには課題もあり、期待した効果が得られなかったという失敗事例も多くあります。
ここでは、リフト&シフトにおける具体的な失敗事例をもとに、お客様が直面した課題と、そうした失敗を防ぐにはどうすればよいのかをご紹介します。

1.クラウド化によるメリットが得られない

1つ目は、オンプレミスからクラウドにシステム移行したが、想定していたよりもコストが安くならなかった事例です。
この事例は、スケジュールや業務APへの影響を考慮し、最初のフェーズとなるリフトの時点でマネージドサービスをあまり利用しない方針としていました。
その結果、クラウドサービス利用料といった毎月のランニングコストや運用コストはオンプレの時と変わらず、コスト削減の目的が達成できませんでした。
一般論として、クラウド導入がコスト削減や運用負荷の軽減につながる、というのは間違っていません。
しかし、クラウドに最適化せず構築した場合、思わぬところでコストが発生してしまい、毎月の利用料が膨れ上がるケースもあります。
また、別のケースでは、ミドルウェアのライセンス費用がオンプレミスの時より高くなり、リフトを計画した段階で移行自体を断念したケースも多くありました。

2.シフトを終えるまでにコストと期間を要する

2つ目は、シフトを終えるのに多大なコストと時間がかかった事例です。
リフトによるクラウド移行は短期間でできましたが、その後のシフトの段階ではリフトで実施した移行作業の再利用はほとんどできず、あらためてシフトに向けた検討を行った結果、検討に長い時間を要しました。

シフトにはクラウドに関するより深い経験や知識が必要なため、リフトの時より時間やコストがかかり、シフトの検討が進まなくなってしまったことが原因です。
このように、当初からシフトを前提としたクラウド移行に比べて、リフト&シフトはリフト分のコストと時間が余計にかかることになります。

3.シフトが進まない

3つ目はシフトが全く進まなくなった事例です。
この事例は、リフト&シフトを計画した時点で、シフトまで見据えた計画を立てていませんでした。まずリフトを行い、落ち着いてからシフトを検討する予定でしたが、シフトへの検討着手が遅れクラウドのメリットが得られない状態でシステムが稼働し続ける状態となりました。

クラウド移行を成功に導くために

このように、アジリティ向上やコスト削減を期待してクラウド移行をした結果、その恩恵を得られるのは何年も先、というのは決して望ましい状態とは言えません。
これらを解決するために実際のお客様での取り組み内容についてご紹介します。

全システムのクラウド移行性評価

まず、全システムをマクロな視点で情報収集を行い、各システムのクラウド移行性(移行難易度や移行によるメリット等)の評価を行いました。
検討対象システムの制約や課題、移行メリットについて分析を行い、各システムの最適な移行戦略(リホスト、リフト&シフト、リアーキテクチャ等)を事前評価することが目的です。
システムを評価する軸としては、大きく以下の2軸に分類されます。

  1. クラウドの適合度
    • 該当システムの特性がクラウドの持つメリットを享受し易いかどうか
  2. クラウド移行難易度
    • 該当システムの非機能要件をクラウドで実現することが可能かどうか
    • クラウド移行に際してのノックアウト要素がないか
    • 各種マネージドサービスの採用において課題がないか

なお、クラウドは高い頻度で技術革新が行われており、1年前には実現不可だった要素がアップデートにより実現できるようになっている場合もあります。
そのため、一度評価を行って終わりではなく、クラウド側のアップデートに追従しながら定期的にノックアウト要素を見直し、移行戦略の棚卸を行うことが重要です。

クラウドシフトを意識した活動

次に、各システムの移行検討にあたっては、単純リフトではなくクラウド活用の効果を最大限高めるために、クラウドへのシフトを意識した計画と活動を実施しました。具体的な取り組みとして、下記の通り案件立ち上げから設計までのフェーズごとに多様なサポート施策を行いました。

システム構成アセスメント

特に重要なシステムや、サーバ台数が多く構成が複雑なシステムは、プロジェクト立ち上げ段階でシステムの移行アセスメントを行い、求められる非機能要求レベルを踏まえ、次期システムの構成検討やコスト見積りを行いました。

ここでは、マネージドサービスへの置き換え可否を中心に検討を行います。

マネージドサービスは設計や運用の大部分をクラウドサービスプロバイダが担うため、適切に選択することでシステム運用に関する負担を軽減することができます。

そのため、アプリケーション開発への影響を見極めつつ、「処理方式・サーバ構成の見直し」や「マネージドサービス活用」による最適化に向けた活動を行いました。

リファレンスモデルの提供

既存システムの構成をあらかじめ調査し、汎用的に利用できるセキュリティや可用性に関する設計方針を標準化し整備しました。

これにより、クラウド利用経験が浅くてもクラウド化により効果が得られる観点、考え方、使用すべきサービス等を理解し、クラウド化の検討を進められるようにしました。

アーキテクチャレビュー

開発着手後の取り組みとして、クラウドの知見を持った第三者が、設計書記載内容やシステム構成をレビューし、課題や改善点の有無をチェックしました。

オンプレミスとクラウドの特性の違いを踏まえ、より効果的なクラウドへのリフトや、シフトを想定したアーキテクチャとなるよう設計の早い段階で確認するようにしています。

人材育成

また、クラウド人財の育成施策として、社員の方々がクラウドに関する十分な知識やスキルを身に付けられるよう研修や勉強会を開催しました。
システム開発の領域においては、開発ベンダと協力のもと開発や運用を行うケースが多いと思います。当然、クラウド移行を成功させるためにも開発ベンダとの連携が不可欠ですが、開発ベンダが得意領域や得意製品の利用を提案し、シフトの検討が進まない場合があります。
そのため、各企業の社員においても、クラウドに関する知識を備え検討をリードしていくことが必要で、どうしたら効率的で最適化されたシステムを作ることができるか開発ベンダと議論していくことが重要です。

まとめ

リフト&シフトは、コストや移行期間を抑えクラウド移行を実現することができますが、一方で課題も存在します。
リフト&シフトを採用する場合のポイントは、移行(リフト)することが目的ではなく、最適化(シフト)することが目的ということです。必要な機能やサービスを選択し、最終的なシフトを目指して計画を立てることを意識しましょう。
もし、上記のような課題を抱えていらっしゃいましたら、これらの取り組みをご参考にしていただければと存じます。