はじめに

顧客向けに提供しているスマホアプリのアクティブユーザーが減り続け アンケートや営業からの情報を元に機能追加や改善を行ってきたが解決されない。何が悪いのだろうか。」
これは、 ある製造系のメーカー様 が顧客向けに提供しているスマホアプリが抱える課題です。
多くの企業で同様の課題を持っているお話をよく耳にします。
本質的な課題はどこにあるのでしょうか?
それを紐解くヒントに「デザイン思考」があります。
今ではビジネスの場面で活用が広まり、 採用し取り組んでいる方や、いくつかの事例をご存知という方も いらっしゃる でしょう。
そもそもデザイン思考とは、デザイナーやクリエイターが実務で使う思考プロセスをフレーム化し、 顕在化していない課題や捉えところが難しい問題に対して最適な解決を図るための思考法です。
では、なぜこの思考プロセスが注目を浴び多くの企業で採用が広がっているのでしょうか。その理由としては 冒頭の課題を解決する 3つのベネフィットが ると考えています。
次項以降ではデザイン思考が必要となるポイントを事例から紐解き、事例での活用、 デザイン思考がもたらすベネフィットをご紹介させていただきます。

なぜデザイン思考が必要なのか

デザイン思考を導入・実践する目的として多く聞かれるものは、

  • ユーザーにとって価値があり利用されるサービスやプロダクトをつくりたい
  • その為にはユーザー目線に立ちペルソナやユーザージャーニーを使ってコンセプトをつくりたい

など、これまでのサービスやプロダクトを提供する企業目線に寄りがちなアプローチではなく、ユーザーの目線に立って潜在的な課題を探り、そこから提供すべき価値を見出すアプローチが必要ということです。

これらデザイン思考のマインドセットやプロセスからアウトプットされた価値がこれまでのサービスやプロダクトの改善や新たなビジネス創出を行うことに適しているからだと見ています。
では、具体的な事例からピックアップしご紹介します。

デザイン思考の活用事例

ある製造系のメーカー様の事例では顧客に提供するサービスについて以下の課題背景がありました。

  • 顧客向けに提供しているスマホアプリのアクティブユーザーが減り続け顧客ロイヤリティや満足度向上につなげることができていない。
    • その背景には担当する部門ごとに段階的且つ断片的に提供してきた機能が顧客の求める価値や体験として提供できていない。
    • またコンセプトを策定するだけにとどまり、実際に具体化するためのロードマップを描き、アジリティ高くユーザーに提供できていない。

これらの現状から誰にとって価値のあるものかという視点が欠落し、企業の立場や組織内のステークホルダーの目線に偏り、意思決定や調整に時間がかかるなど、結果として顧客目線でのあるべき姿ではないものが出来上がってしまっていたと言えます。

この事例ではデザイン思考のプロセスに従い以下を実施しました。

  • 自社のサービスやプロダクトを選び続けている大切なひとりの顧客に寄り添ったひとつのペルソナを作り、感情の流れも踏まえながら最も解決すべきペイン・ゲイン、顧客の困りごと、期待していることを抽出する。
  • そして、見出した課題仮説に対し、部門間の垣根を超えて解決する為のアイデア出しを当事者意識をもち行う。そのアイデアを素早くラフスケッチにし共有しながらコンセプトを可視化する。
  • 新しい顧客体験の定義とアイデアを可視化したプロトタイプとブレストのサイクルをクイックにコンセプト検証を行う。
上記を実施したことで顧客が求める体験を取り込んだスマホアプリの開発につなげることができました。
例えば、このメーカーの担当者様からは、「コンセプト検証においてコンセプトを可視化したモックアップを使い確認を取ることで、顧客にとって最適と思う方向性を見出すことができた。それにより開発対象とする機能に納得感があり社内決裁スムーズに通すことができた。」とお聞きしました。
このようにデザイン思考を実践し得られた成果から3つのベネフィットがもたらされています。

デザイン思考のベネフィット

1.共創によるプロジェクトメンバーの合意形成
2.部門サイロ化の打破
3.可視化と検証から素早く形にする
前述の事例ではこの3つのベネフィットがもたらされました。このベネフィットは、「先進的な取り組みのリサーチを実施しつつ、実際に巻き込むステークホルダーを検討していきながら具体案を可視化する」プロセスの結果として得られたものです。
例えば「1.共創によるプロジェクトメンバーの合意形成」は、ワークショップなどで共に作るプロセスをプロジェクトメンバー間で踏むことで、スムーズな合意形成と意思決定が得られました。ここでのポイントは仲間意識の醸成や味方づくり、上位層を巻き込むことで上位下位レイヤーを崩し、合意形成をスムーズにすることです。
また、ユーザージャーニーの体験価値を向上させるためには営業やマーケティング、コールセンターなど部門を超えたサービス企画の検討が不可欠です。そのため部門のサイロを超えた1つのモノで話し、同じ方向を見てお互いの異なる価値観を共有できるようになり、「2.部門サイロ化の打破」が実現しました。
さらに、何となく出たアイデアでも、その場のポストイットだけに留めておかず認識を合わせ、ユーザーにとって明確な提供価値になり得るのかを確認しながら前に進むことが大事であることを理解すること。そして、アイデアをラフに作りながら、みんなで理解し少しずつ前に進めながら実感を得ることで、「3.可視化と検証から素早く形にする」ことができるようになったのです。

おわりに

企業が顧客に提供する製品やサービスにはテクノロジーが競争力と密接に紐づいているものの、テクノロジーだけではなくデザインを掛け合わせた取り組みが必要です。
NTTデータは、デザイン/ビジネス/テクノロジーそれぞれの観点から新しい価値を生み出し企業のビジネス価値向上に貢献していきたいと考えています。
NTTデータのデザイナー集団「Tangity」
NTTデータは、世界11カ国に17のデザインスタジオを設けており、「NTT DATA Design Network」として、各デザインスタジオのノウハウを共有しています。このうちイギリス、イタリア、日本、ドイツ、中国の5カ国のデザインスタジオを統合し、デザイナー集団ブランド「Tangity」を2020年6月に立ち上げました。これは業界や技術にとらわれず課題定義と解決を多角的に検討するグローバルデザインチームです。