はじめに

今、私たちの身の回りには、様々なモノやサービスがあふれています。スマートフォンを覗けば色々なコンテンツが並び、ほしいものがあれば簡単に配達依頼をかけることができます。より便利な社会になっている、と言えるでしょう。

一般に、モノやサービスには、それぞれ価値があります。例えば、衣類であれば身体を守る、といった価値が考えられます。コーヒーであれば、美味しさそのものが価値かもしれません。同じ価値であれば、より価格の安いものが選ばれます。これは資本主義のルールであり、その結果、より安く、より良いものが生み出されてきました。

しかし今、より「良い」という価値が再定義されようとしています。ここでは、新たな価値の例と、それを支える技術について紹介したいと思います。

目には見えない価値

手にとった製品が環境破壊につながっていないか。見ているコンテンツは違法な労働力から提供されていないか。こういった、旧来の機能以外の「価値」を組み込む企業が増えています。あるコーヒーショップでは、適正な労働によりつくられたコーヒー豆を扱い、あるマグカップは温室効果ガスの排出を抑えた製造過程で作られています。このような「価値」は味覚や触感で感じることはできませんが、価格には反映されます。そして、このような「価値」の組み込みは、多くの賛同者を巻き込み、世界中で拡大しています。

例えば、コーヒー豆の事例では、フェアトレードと呼ばれるものがあります。これは、持続可能な方式による栽培、労働者への適正な収入の確保、農薬を減らした安全な食品の提供など、環境問題と生産者の保護と品質のバランスを取りながら、公正な取引を推進するものです。

2020年度の日本のフェアトレード市場規模は約131億円と推定されていますが、あまり馴染がないかもしれません。しかしながら、欧米諸国では社会問題への関心が高く、フェアトレードの世界の市場規模は1兆円をこえています。2017年のデータですが、日本の1年間のフェアトレード消費がひとりあたり約89円なのに対し、スウェーデンでの消費は約4,735円となっています。

より安く、より良いものを継続的に求める企業活動の中で、より「良い」という価値は変わりつつあります。2020年度には、Environment、Social、Governanceに関する債券、いわゆるESG債の発行額が1.6兆円を突破しています。

今はESG活動に取り組む企業は一部だけですが、環境問題をはじめとした様々な社会問題に関する姿勢が、これから減速するとは考えにくいです。実際、自主参加とされていますが、排出権取引の企業参加が、日本でも2023年度から開始予定です。欧州の一部の国では、すでに炭素税が導入されています。今後の企業活動を進めるうえで、社会問題への取り組みは必須要件になるかもしれません。

価値を支える技術

ESG活動の高まりに伴い、懸念点も出ています。各企業に対して、ESGの情報開示を求める声が増えている一方、現時点で統一されたESGの開示基準は存在していません。また、企業に対してESGのランク付けを行う評価機関は、世界中で600以上も存在しています。評価にばらつきがあるため、せっかく自社で「より良い価値」を提供しても、満足のいく評価を得られるとは限りません。

ただ、評価は得られなくとも、自社の活動を発信することはできます。活動内容に「価値」を感じて応援する人が出てくれば、それは成功と言ってよいのかもしれません。もちろん、その活動内容に偽りがないことが前提になります。残念ながら、実態を伴わない環境活動で投資家や消費者を欺く「グリーンウォッシング」と呼ばれるケースも存在します。ここで大事なことは、活動に偽りがないことです。活動内容が真正性をもって記録されれば、評価機関を通さずとも、自社の取り組みは正当に評価されるかもしれません。

例えばフェアトレードであれば、「生産者の能力向上に取り組んでいること」「生産者に公平な対価を支払っていること」「自然環境に配慮していること」等の活動について、それぞれを記録することが考えられます。これらはフェアトレードに関する一般的な基準なので、認証を得て評価されることもできますが、そうでない場合でも、このように自社の取り組みを記録することは可能です。

この取り組みの中で、注目されている技術にブロックチェーンがあります。ブロックチェーンは対改ざん性を持ち、かつ非中央集権的に動作する、データベース技術のひとつです。ビットコインの誕生とともに産声をあげたブロックチェーンですが、今では世界中で様々なサービスの開発が進められています。

ブロックチェーン上に記録されたデータは、誰でもデータにアクセスでき、内容が改ざんされていないことが確認できます。また、時間の経過とともに劣化することはありません。何に“価値”を感じるかは、社会の潮流によって変わっていきます。今行っている活動が、たとえ重要視されていなくても、将来的にはとても意味のあるもの、と認められるかもしれません。そういった場合でも、ブロックチェーン上のデータであれば、遡って記録を追跡することが可能です。

終わりに

より良い社会を目指して、モノやサービスそのものが持つ価値に加えて、新たな価値を結合する。多様な価値がある中で、どれもが公平性を保ちながら、社会に組み込まれていく。そのような世界を実現する技術のひとつとして、ブロックチェーンを紹介しました。

ビットコインは決済手段としてのコインの価値を提供していますが、ブロックチェーンそのものは、より多様な価値を内包させることができます。

これからは、少しくらい不便でもこっちのほうが「良い」ね、といった選択が、もっと増えてくるかもしれませんね。