はじめに

経産省の「2025年の崖」においてDX実現を阻害する要因として述べられた「技術的負債」を解消するため、多くの企業で老朽化したシステムからの脱却にアプローチをしてきました。そして新たな移行先としてSaaSを選択肢とする企業も多いです。
 
SaaSはインフラ運用のコストを大きく下げられる、定期的な機能追加等による利便性向上といった様々なメリットがある一方で、スクラッチ開発のような細かいところに手が届くといったものではないことから、業務をシステムの仕様に合わせるといったことも必要となってきます。しかし、長年にわたって現場に寄り添うようにカスタマイズされたシステムの脱却には抵抗も多く、なかなかオンプレ型のシステムからの脱却が進んでいかないという企業もまだまだ多いのではないでしょうか。
 
今回は、複数企業における社内システムのSaaS移行に携わってきた経験から、SaaS移行を推進する上でのポイントについてご紹介していきたいと思います。

SaaS移行推進の2つのポイント

これまでのようなシステムを現場の業務に合わせるというカスタマイズ前提のシステムから、SaaSのようにシステムにある程度業務を合わせていくといったタイプの移行においては、以下の2つが推進する上でのポイントと考えています
 ①経営層による施策協力
 ②現場視点での移行影響の具体化
 
それぞれについて説明します。

推進ポイント①:経営層による施策協力

社内で抵抗感が多く発生する施策を推進する上では経営層を巻き込み、トップダウンによる施策推進が不可欠です。推進部門や関連メンバに全部を任せて推し進めるのではなく、経営層自らが施策推進に入り、現場層への発信を自分の言葉で語れるようになることがポイントと考えています。
当然のことながらすべての議論に経営層が参加するのは難しいですが、SaaS製品であればサーバの購入やソフトウェアのインストールなど環境構築などのコスト・時間もかからず、小さく動くものを作ることでシステムの「手触り感」を共有出来ることは大きなメリットとなります。
金融機関A社においては、社内のコミュニケーションはオンプレのグループウェア、社外のコミュニケーションはMicrosoft 365と、ライセンスの二重払いが課題となっていました。オンプレのグループウェアをMicrosoft  365に統合していきたいという漠然とした方向性はあるものの、現場の業務に合わせた多くのカスタマイズがなされていることが足かせとなり、情報部門での統合施策の推進に二の足を踏んでいる状態でした。
A社では既にMicrosoft 365のライセンスをすでに保有している状態でしたので、まずは現行グループウェアの簡易的な機能をピックアップ、そしてMicrosoft 365上で現行機能を単純に置き換えた場合にどのようなものになるかを弊社でモックアップとして実装することにしました。そのモックアップを定期的に情報交換をしていたCIOに対してデモとしてお見せしたところ、ぜひこの施策を社内で進めていきたいということで、施策担当者のアサイン、情報部門内での定期的な検討の場がセッティングされるといったことに繋がっていきました。
百聞は一見に如かずといいますが、経営層に実際に動くイメージを伝えられたことで実感に繋がり、施策が大きく進んでいくきっかけとなったと考えています。

推進ポイント②:現場視点での移行影響の具体化

老朽化したシステムの脱却をしていく過程では、何かを得る変わりに何かを捨てるといったことが発生します。その際に一番あおりを受けるのは現場層であることも多く、また施策について十分な説明がない中で移行が進んでいくことも少なくありません。そんな現場部門へのケアが2つ目のポイントとなります。
体制が整い、検討を進めていくと、施策実施の予算確保のための企画に関する稟議などを通じて施策推進の必要性を語るための材料はそろってくると思いますが、ここではより一歩踏み込んで、現場の目線に立ってどんなことが新しく出来るようになるのか、何が出来なくなってしまうのかを具体的に抑えておくことも大切です。
食品メーカーB社においては中核社員の高齢化に伴い、将来的に見込まれる要員構造に対応するため、人的資源を有効活用することを目的としてグループ内の営業業務を共通化・社内システムのPF統合を進めていました。その中でも営業業務に係る複数のコンテンツ配信系アプリをSaaS製品に統合するという取り組みを支援した中で、声が強い現場部門に対してどのように施策の合意形成を図っていくかが大きな課題となっていました。
弊社で施策を推進していく上ではA社と同じようにSaaSでのモックアップを作成しつつ、顧客の上位層も含めて実感を持った議論を進めていくことを心がけました。また、現場部門と合意形成を図る上では、SaaS統合対象とする現行アプリの機能・現行運用の洗い出しを行い、それぞれの機能・運用が実現できるのかのFit&GAPと「出来なくなることの明確化、併せてSaaSに統合することで新たに出来るようになること(便利になること)についての言語化を行いました。

このように施策の「必要性」だけでなく、具体的に「出来るようになること」、「出来なくなること」をセットで説明、更にはモックアップを通じた「手触り感」を理解頂くことで、現場層とは建設的に会話、最終的には合意形成を図り、SaaS導入につなげていくことが出来ました。

おわりに

今回は様々な事例を交えながら、社内システムをSaaSに移行していく上でのポイントを説明しました。
また、SaaSを最大限に活用していく上では、導入した後も肝心です。こちらについては過去公開した記事がありますので、ぜひご覧ください。
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本記事が少しでもSaaS移行を推進する皆様の参考になればと思います。

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