はじめに
2018年に内閣官房IT総合戦略室からクラウド・バイ・デフォルト原則が提唱されて5年以上が経過し、公共/金融/法人の業界を問わず、ITシステムを実装するプラットフォームとしてパブリッククラウドを活用することが普通となりました。
既存システムのパブリッククラウド移行においては、オンプレミス環境のシステムをそのままパブリッククラウド環境に移行する「クラウドリフト」が最初の一歩となりますが、長期間システムを運用してきた組織では、オンプレミス環境のシステムをクラウドリフトする際に様々な課題に直面することがあります。
その一つに、「現行踏襲」という言葉に関連する課題があげられます。
本稿では、長期間オンプレミス環境のシステムを運用してきた組織がクラウドリフトを進める際に検討すべきポイント「現行踏襲」について説明します。
長くシステムを運用してきた組織にありがちな特徴
長くオンプレミス環境のシステムを運用していると、ハードウェアの耐用年数の経過やミドルウェアのサポート終了等の要因により、5年~10年等の周期でハードウェア更改を行う必要があり、組織では何回ものハードウェア更改を経験しています。
ハードウェア更改では、変更に伴う開発費用や品質リスクを抑えるため、業務アプリケーションや処理方式、アーキテクチャは変更せずに、ハードウェア及びミドルウェアの変更に必要な対応のみを行う方針とすることがあります。
この方針はオンプレミス環境からオンプレミス環境へのハードウェア更改においては、既存システムと同等の機能を確実に提供するために有効な方針であり、実績も多いと思います。
そのような組織では、「ハードウェア更改においては業務アプリケーションや処理方式、アーキテクチャは極力変更しない方が良い。」という考え方が定着している恐れがあります。
現行踏襲という言葉にご用心
システムの更改を行う際は、「現行踏襲」がポイントとなります。
「現行踏襲」という言葉について、前述の「ハードウェア更改においては業務アプリケーションや処理方式、アーキテクチャは極力変更しない方が良い。」という考えが定着している組織では、「既存と同じアーキテクチャのまま作る」という意味に捉えてしまうことがあります。
しかし、本来「現行踏襲」とは、「既存と同じ操作方法で同じ機能が利用できる状態」のことであり、アーキテクチャはシステム全体の視点から最適な姿に変更していくべきです。
システムのクラウドリフト時には、オンプレ環境からオンプレ環境へのシステム更改とは異なり、クラウドサービスへの置き換えを含めてメリットデメリットを整理し、最適なアーキテクチャが何かを整理する必要があります。
「既存と同じアーキテクチャのまま作る」の難しさ
そもそも、オンプレミス環境のシステムをそのままクラウドリフトすることが、容易とは限りません。
「IaaS」を利用するとOSより上位をクラウドサービス利用者が管理するため、オンプレミス環境で仮想化を実現している場合、「IaaS」上に仮想OSを移行することは容易に思えます。
しかし、オンプレミスで利用しているソフトウェアが全てそのまま「IaaS」上で利用できるとは限りません。
例えば、HAクラスタリングソフトウェア等はクラウドに対応していない製品があったり、クラウドに対応していたとしてもフローティングIPリソースの制御はロードバランシングサービスを利用するように変更しなければ動かなかったり、共有ディスク型クラスターを構成できなかったりします。
システム内で異なるHAクラスタリングのアーキテクチャ(ソフトウェアやクラスタリング方式)を採用している場合は、それぞれ「IaaS」上に移行できるか、移行するために必要な変更が何かを検討/検証する必要があります。
筆者が直面した現行踏襲の事例
ここで、筆者が直面した事例を記載します。
[ログ管理システムのリアーキテクト]
とある歴史的なログ管理システムは、縦割り設計チームの副作用で複数のログ管理方式が存在しました。
そんな中、新たにログ管理システムのアーキテクチャを検討することとなりました。
どのようにクラウドリフトするのが最適でしょうか?①~③の整理を行いました。

その後、各ログにおける既存システムでの収集方式や管理目的を整理し、それぞれのログにおいて最も適していると考えられる選択肢からアーキテクチャを選びましたが、本事例では多くのログに対して②を選択しました。
クラウド移行の次を見据えてリアーキテクトを
クラウドへの移行は、組織が推進する“DX”の入り口の一つであり、クラウド移行することがゴールではありません。
クラウドサービスを活用してビジネス拡大やユーザ/カスタマーエクスペリエンスの向上等につなげていくためのクラウド移行です。
そのためにも、クラウド移行を行う際は、「クラウドリフト」だけでなく、オンプレミス環境の複雑となったシステムを一度整理し、クラウド移行するためにリアーキテクトを行うことで、その後「クラウドシフト」を円滑に進め、“DX”推進に繋げていくことができます。
さいごに
長期間運用してきたシステムをパブリッククラウド移行する時には、正しい「現行踏襲」を意識して最適なアーキテクチャを検討することが大切です。
リアーキテクトの成功は、そのシステムの運用自体だけでなくクラウド移行後のクラウド活用・DX推進を成功させる為の第一歩です。
