はじめに
ヒューマンセンシングと聞いて、どんなことを思い浮かべますか?例えば身近なものでいうとアップルウォッチ、FitBitなどのスマートウォッチなどが該当します。
1970年代にデジタル腕時計としてはじめて登場した際は日付表示、アラーム機能など限定的なものでしたが、2010年代にアクティビティトラッカー(活動量計)機能を搭載したスポーツ向けウォッチの登場を皮切りに心拍数、血中酸素、睡眠と様々な生体データが取得可能になり、目まぐるしい成長を続けています。
実際にこの記事を読まれている方の中にもすでに利用されていて、自分のライフスタイルの改善に取り組まれている人がいるのではないでしょうか。
スマートウォッチ市場は2024年から2029年にかけて3倍ほどに拡大することが見込まれております。
本記事では生体データを測定するところからどのように活用されるのかという、今後のビジネス展望についてご紹介します。
ヒューマンセンシングを構成する2つのIoB
昨今のウェアラブルデバイスのように、人間をインターネットに接続する概念は、近年 “Internet of Bodies”、通称 “IoB” という言葉で語られることがあります。
また一方で、”Internet of Behavior”、つまり振る舞い、あるいは行動のインターネットという意味で使われることもあります。
この言葉は、調査会社のガートナーが、2021年のとあるレポートの中で提唱した言葉です。
ガートナーは Internet of Behavior を「データを収集・利用して行動を促すこと」と定義しています。
出典:Gartner、「ガートナー2021年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド」
https://www.gartner.co.jp/ja/articles/gartner-top-strategic-technology-trends-for-2021
このように、2つのIoBが指すものは厳密には異なりますが、「ヒトにフォーカス」するという点では、共通しています。
ヒトの身体や行動に焦点を当てることで、ハイパー・パーソナライゼーション、つまり、「顧客の行動データをリアルタイムで収集し、顧客の要望やニーズに応じて製品、サービス、顧客体験をカスタマイズする」ことが実現できるようになると考えられます。

図1:2つのIoB
ヒューマンセンシングの応用可能性
分野別にみると、医療・ヘルスケアを中心に社会実装が進んでいます。
例えば、人間の「モニタリング・見守り」、健康管理、遠隔医療で既に活用されていますが、今後は無自覚な病気兆候の発見などにも活用されていくと考えられます。
次に流行ると予想されるのは、エンタメ・教育訓練での活用です。感動体験を可視化して、本人にフィードバックしたり、イベントの演出に活用したり、メタバース空間に投影したりといった活用が考えられます。
教育訓練の分野では、言語化しにくい熟練者のコツをデータ化して、トレーニングに役立てるといった、技術伝承のための活用が考えられます。
今後、取得データの多様化やセンシングのフリクションレス化が進むと、他の用途での応用が一気に進む可能性があると見込まれています。
ヒューマンセンシングに取り組むうえで考慮すべきポイント
現在、ヒューマンセンシングを事業に取り入れるには、デバイスのコストを考慮したビジネスモデル設計や、社会的受容性の壁など、乗り越えるべきハードルが高いことは否めません。
だからこそ、数年先の未来を見据えて、中長期的な事業開発に見合うだけのインパクトや提供価値を生み出せるかを、見定めることが特に重要となります。
そのためには、次の3Stepでのプロジェクト推進が鍵となります。
Step1:Foresightを描く
数年後に実用化されるであろう技術にも目を向けて、先進事例調査やテクノロジーリサーチといった活動を通じて、社会や業界に起きる変化を予想することを行っています。
Step2:顧客への提供価値の再定義
次に、そういった社会に起きるであろう変化を捉えた上で、自社の事業が顧客に提供する価値を、テクノロジーを用いてどのように変革できるか?を考えます。
Step3:実装・効果創出
ヒューマンセンシングを活用したユースケースを実現するには、単純なシステム開発とは異なり、センサーデバイスやデータ収集など、実現すべき要素が一気に増えます。
当然一社ですべてをまかなうことは難しいので、外部のパートナーの力を借りながら、必要なピースを埋めていくという考え方が不可欠となります。
Foresight起点でのビジネス創出事例
ここで、前段でご紹介した3Stepに則り、NTTデータで実際にサービス化、案件推進を行った事例をご紹介します。
・睡眠解析ができる最新鋭のスリープテックホテル
ホテル事業を展開するナインアワーズ、スマートウォッチのFitbitとの協業により、スリープテック、フードテック、ウェルネスデータを融合させた健康増進の新事業の一環として、2024年7月よりアレア品川に睡眠解析に特化したカプセルホテル開業を予定しております。
従来のホテル業に睡眠解析事業という新たな価値を付加し、他では経験できない顧客体験を提供します。
今後は睡眠データを皮切りに、生活シーンでウェルネスチェックができる環境を整備し、医療データへの拡大により利用者の状態に合わせた、未病から治療までの一貫した体験の提供を目指します。
・テクノロジーの体験・共創の場 「ヘルスケア共創ラボ」
保険ITサービス事業部戦略デザイン室では今期の中期経営計画「Realizing a Sustainable Future」の実現に向けて、ヘルスケアの観点から保険ビジネスの未来像を描き、『テクノロジーを活用してより健康で安心安全に暮らせる社会』という未来像を策定しました。
そして、その未来像をNTTデータの従業員やお客様、パートナー企業、そして生活者の皆様に実際に体感してもらい、Foresight起点で新たなビジネスを共創する場として、「ヘルスケア共創ラボ」を豊洲にオープンしました。ヘルスケア共創ラボには、健康可視化、運動、食、そして睡眠といった4つのテーマに関して、体感していただけるコンテンツをご用意しています。

図2:ヘルスケア共創ラボイメージ
・ライオン×NTTデータ 口腔内センシングによるビジネス創発
ライオン株式会社(以下、ライオン)とNTTデータは、2022年1月より、デジタルトランスフォーメーション推進に関する業務提携を行っております。
その活動の一環として、現在、口腔内センシングに着目したビジネス創発に挑戦しております。
口腔科学と生活者の習慣づくりに強みを持つライオンと、デジタルテクノロジーの活用に強みをもつNTTデータが、両社の強みを活かしながら共創を進めています。
この共創活動においては、「もしこんなデータが取れたらこんなことができるのではないか」といったフォーサイト視点でアプローチし、一般消費者に対する口腔に関する新たな生活習慣の提供に向けて共創を進めています。
おわりに
本稿では生体データの測定が今後どのようにビジネス拡大されていくか、その展望についてご紹介しました。
顧客一人一人に焦点を当てた、きめ細かなサービス提供においてヒューマンセンシングは今後不可欠な技術となることが予想されます。
自社製品と顧客接点の強化、パーソナライズ化によるサービスの高度化の模索を考えているのでしたら、生体センサーを取り入れてみてはいかがでしょうか?
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