はじめに
前回までの当コラムでは、エッジコンピューティングの基礎や普及に向けた課題について焦点を当てました。
今回はエッジコンピューティングのより高度化した姿と、当社も含めたNTTグループの取り組みについて述べます。
NTTグループでは、現在、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想として2030年に向けた研究に取り組んでいます。
IOWN構想は、あらゆる情報を基に個と全体との最適化を図り、光を中心とした革新的技術を活用したネットワーク・情報処理基盤の構想です。
現状のICT技術の限界を超えた新たな情報通信基盤の実現をめざしています。

出典:NTT R&D Website(IOWN構想)https://www.rd.ntt/iown/
このIOWN構想の研究開発テーマから、以下の2つにフォーカスしてエッジコンピューティングの将来の姿について検討します。
- All Photonics Network
- Cognitive Foundation
各テーマの検討では当社も参画しており、その取り組みについても紹介します。
All Photonics NetworkによるEdgeの高度化
All Photonics Networkでは、光電融合デバイスにより超低遅延、省電力、大容量を実現します。
具体的には、電力効率100倍、伝送容量を125倍、エンド・ツー・エンド通信遅延を200分の1というブレークスルーをもたらします。
このブレークスルーにより、CPU、GPU、メモリ、ストレージ等のリソース間を光でつないでアクセスが可能になります。
この新たなコンピューティングの形はDisaggregate Computingと呼ばれ、エッジコンピューティングのより進化した姿として考えています。
Disaggregate Computingでは、拠点やデバイス間で計算資源を借りることが可能になり、例えば、CPUが他の拠点やデバイスのメモリにダイレクトアクセスできます。
これを今まで説明したエッジコンピューティングに当てはめると、Edgeデバイスの配置制約やリソース不足から解放されます。
他のEdgeからクラウドのリソースの活用や、Edge間でリソースの貸し借りといったユースケースも可能になります。
All Photonics Networkでは1つの伝送路に多数の波長の光を流すことで効率を高めています。
このため、通信毎に波長を分割して衝突回避や、波長ごとに経路の計算など、オーケストレーションが重要な要素になります。
当社では、これを実現するコントローラの開発に長年携わっています。
Cognitive FoundationによるEdgeの高度化
Cognitive Foundationとは、クラウドやネットワークに加えユーザのICTリソースまで配備と構成の最適化、さらには完全自動化・自律化を目指す構想です。
この構想では、従来のシステム情報以外にも気象情報や社会情勢など外部の環境情報を収集し、システムが自ら考え最適化していくことで、様々なイベントに対応したオペレーションを実行します。
Cognitive Foundationは以下の3つの機能で構成されており、3つが連携動作することで自己進化型のオペレーションを実現します。

Cognitive Foundationの自律サイクル
- I(Intelligent)機能
- ビジネス要求や外部の状況変化を学習・分析する。
- M(Management)機能
- 基盤やICTリソースの構成管理、リソースデータや外部データの収集と蓄積を行う。
- O(Orchestration)機能
- 基盤やICTリソースに対する制御やスケジューリングを行う。
エッジコンピューティングの自律的な運用について前回のコラムでも言及しました。
ただし、上記のCognitive Foundationの構想を踏まえると、前回コラムでは主にManagement, Orchestration方式について検討しています。
自己進化するオペレーションを実現するためには、I機能に相当する収集したデータから学習・分析する仕組みが重要です。
エッジコンピューティングでは、エッジ側で学習・分析を行うことで、単体での自律判断が可能になります。
分散したエッジごとに学習モデルが異なるため、全体での最適化のために学習結果を統合する仕組みが必要だと考えています。
Cognitive Foundation実現に向け、当社ではI機能、M機能、O機能の3つそれぞれの要件定義に協力しています。
この構想では機能間の連携方式やインタフェース、扱うべきデータモデルなど多数の要素が存在するため、NTTグループ横断で協力しながら検討しています。
Cognitive Foundationについては様々な業界や分野でのユースケースの検討も始まっています。
- 通信設備に関わる需要(マンション建設など)を予測。さらに、需要と在庫状況、コストのバランスを鑑みて、仮想化された所内設備・装置の最適な組み合わせを計画・設計する。
- 様々なサービスの利用実績を基に今後のサービス利用見込やネットワーク供給量を予測。最も効率的なサービス提供のために、必要なネットワーク構成と効率的なネットワークリソース提供を行う。
- 経年劣化の統計情報や故障発生時の過去ログを収集し、装置の故障を事前に予測。予備装置のセットアップや切り替えジョブを事前登録するなど、回避策を自律的に図る。
上記はそのユースケースの一例になります。ユースケースを蓄積することでより現実に即した要件定義が可能になり、実現化が加速すると考えています。
まとめ
今回は3回連載の最終回として、エッジコンピューティングのより高度化した姿について解説しました。
NTTグループでは、2030年に実現を目指すIOWN構想として多数の研究開発に取り組んでいます。
その中からエッジコンピューティングに密接した2つのテーマを取り上げ、現在の取り組み状況なども紹介しています。
- All Photonics Network
- Cognitive Foundation
Cognitive Foundationについては、様々な業界の方々と議論しその結果を反映することで、幅広く活用が期待できると考えています。
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