テレワークが浸透し働く場所を選べる時代において、現場で直面する情報やナレッジ共有に関する課題、最新のAI・クラウド技術を活用することで実現する働き方変革及び自社システム導入事例について紹介します。

1. テレワークの現実

エピソード1:「あのファイルはどこにいった」

コロナ禍3年余、オフィスワーカーを中心に在宅勤務に代表されるテレワークが日本でも当たり前になった現在、自宅で一人そうつぶやく機会が多くなったと感じる方がいらっしゃるかと思います。
在宅勤務を実現するための施策として、社員の利便性向上を目的に様々なツールが導入されました。代表的なところでチャット、オンライン会議といった社内外のコラボレーション推進、社内外でファイルをやり取りするためのオンラインストレージなどが挙げられます。
一方で企業における「情報」の所在は、従来のメール、ファイルサーバで管理していた時代と比べ、ますます混沌とした状況になりつつあります。
これは積極的にツールが活用された結果、社員が取り扱う情報のサイロ化(*注)が進行しているのが主な原因です。

*注:サイロ化:
家畜の飼料や穀物などの貯蔵庫に例えて、企業などの組織が業務に使用するシステムにおいて、部門や組織をまたいだデータの連携が行えないために、情報共有が行えない状態

エピソード2:「誰に聞けばいいのだろう」

オフィスの自席近くに先輩や上司がいて、別の階には他の部署があって、何か困ったことがあれば気楽にすぐ相談できる環境が以前は存在していました。
今や頼れる人は皆、インターネットの先にいます。
テレワークで仕事を効率よく進めるためには、関係者をまとめて打ち合わせる機会が必然的に多くなります。
その結果、社員のスケジュールはミーティングや会議でかなりの割合が埋まってしまい、気軽にすぐ聞けない現状にフラストレーションを感じる方も多いのではないでしょうか。
また、コロナ禍で入社した社員にとっては、自部門でさえ会う機会が少なく、他部門に至っては全くわからないといった状況が続いており、さらに厳しさが増しているように思います。

以上、テレワークの現実と課題をまとめたのが図1です。
働き方変革に向けて、企業に散在する知的財産をいかに活用するかは、これからの時代においてますます重要な取り組みとなると考えます。

図1 様々な便利ツールが引き起こす新たな現場課題

2. ソフトウェア中心のイノベーションの時代

コロナ禍がもたらした新たな変化の本質として「変化の速度」が挙げられます。
VUCA(*注)の時代に環境やニーズが変わり続ける中で、その時々の環境やニーズに応じて企業の付加価値を変えていくことで、持続的な成長を実現する、つまり非連続的な成長がこれからの経営戦略の主流になることを意味しています。
そのためには付加価値を変え続ける仕組みを実装できるかが企業の生命線になります。
今、付加価値を変え続ける仕組みをITで実装する流れが主流になってきています。
ビジネスプロセスの効率化など今までの「戦術」としてのITから、競争優位性をもたらす価値そのものを創出する「戦略」としてのITに変わっています。

*注:VUCA:
Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語で、社会やビジネスの未来予測が難しくなる状況のこと

2019年6月に独フォルクスワーゲン社が「我々はクルマメーカーからソフトウェアメーカーに生まれ変わろうとしている」というメッセージを発表しました。
その際には、「これからの自動車のイノベーションの9割はソフトウェアから生まれるだろう」という見解が示されました。ではなぜソフトウェアからなのでしょうか。
デジタルイノベーションが過去の産業革命と異なっている点が、「ソフトウェアドリブン」であることです。(図2参照)

「ソフトウェアドリブン」つまり、人が頭で創造し論理的に構造化さえすれば、そのすべてを実現することができるというものです。
移動という手段を考えた場合、人間が移動する手段として馬車というものを発明して、米国の自動車メーカーであるフォード社がT型フォードと呼ばれる量産型自動車を作るまで実に4,000年もの時間を要しました。
現在では全ての現実空間を仮想空間に再現させるデジタルツインの概念によって、そもそもの移動の概念を根本から変えようとしています。

図2 現代のイノベーション

ソフトウェアドリブンを実現するにあたり、新しいソフトウェア開発手法として、さらに組織変革やビジネスの革新手法として注目を集めている「アジャイル」。
「スクラム」はその中で最も普及しているフレームワークの一つです。
スクラムの定義は2003年に公開され、今も更新されている“The Scrum Guide”(Ken Schwaber & Jeff Sutherland執筆) が有名ですが、そこに至った源流に1986年竹内弘高氏、野中郁次郎氏が発表した論文「新しい新製品開発ゲーム」があったというのは、知る人ぞ知る事実です。
この論文の中では“Japan as No.1”であった当時の日本企業の新製品開発の速さと柔軟性を描き出すため、日本企業における新製品開発プロセスをラグビーのチームがボールを前に進める姿に例えています。
執筆者の一人である野中氏は本論文をもとに1996年知識創造理論を発表し、現在においてもナレッジマネジメントの理論的根幹を支えるデファクトスタンダードとなっています。
このことからも、ソフトウェアドリブンとナレッジマネジメントの親和性が非常に高いといえます。

3. AIを活用した新しいナレッジマネジメントシステムとは

ナレッジマネジメントとは、企業が保持している情報・知識と、個人が持っているノウハウや経験などの知的資産を共有して、創造的な仕事につなげることを目指す経営管理手法のことです。
「暗黙知」と呼ばれる言語化されていないナレッジを「形式知」つまり言語化されたナレッジに変換することで、知的資産の創出と融合を繰り返し行い、新たな知識創造を実現します。
しかし、暗黙知を形式知にする作業は手間がかかりますし、匠の技・口頭伝承の世界においてはそもそも困難な作業のため、これまで現場に広く浸透するには至りませんでした。

近年、高拡張性、高処理能力かつそれを従量課金で利用できるパブリッククラウド基盤が台頭し、処理能力の限界が飛躍的に高くなるとともに、最新AI技術がすぐに使えるPaaSとして提供されるようになりました。
その結果、ナレッジマネジメントシステムが提供する機能が著しく進化するとともに、コンテンツ自体も動画などのリッチコンテンツが提供できるようになることで形式知化の手法も豊富になりました。
それ以外には音声認識による議事録自動生成など形式知化作業の省力化技術も日々進化しています。

また、従来から行われていたKnow-How検索に加えてKnow-Who検索(ナレッジを保有する専門家探索)を実現することで、「人」と「人」を繋ぐことによる暗黙知でのコラボレーションを実現します。
これらは、オントロジー(人間の持つ「情報」をコンピューターが分かるように整理、記述すること、またそのフレームワーク)やナレッジグラフ(ナレッジを体系的に連結し、グラフ構造で表した知識のネットワーク)と呼ばれるAI技術を活用して実現します。
以上のことから、目指すべき新しいナレッジマネジメントシステム像を示したのが図3です。

図3 新しいナレッジマネジメントシステム像

4.自社でのシステム導入事例

NTTデータグループの最大の特徴は、社員が10万人以上、世界各国で様々なお客様と様々なビジネスの実績を積み重ねていることだと考えています。
部門や会社の垣根を越えたコラボレーションを推進し、新たな付加価値を創出するための強みに変えるという取り組みの中で、NTTデータグループ横断でのナレッジの共有を実現しています。
その仕組みを支えるために独自に開発したのが knowler(ノウラー)という名のシステムで、前章でご説明した新しいナレッジマネジメントシステムを具体化しています。(図4参照)

図4 knowlerシステムとそれを支える組織(KMO)

knowlerシステムは既存のファイル共有のシステムと連携し、ワンストップで形式知を共有することに加え、そのナレッジの所有者である社員の属性や現在取り組んでいるプロジェクトを可視化し、誰が何を知っていて、どこで何を行っているのか、その全体を可視化できる仕組みです。
それを見た社員が有識者にコンタクトし、現場間でダイナミックなコラボレーションを実現できる企業に変革することが狙いです。(図5参照)

図5 NTTデータ事例 ナレッジ活用の浸透度、効果

5.終わりに

ソフトウェアドリブンによる新たな価値創出に向けて、ダイナミックな価値変革を実現するための仕組みづくりの効果的な施策のひとつとしてナレッジマネジメントを取り上げ、その事例としてNTTデータグループにおける取り組みをご紹介させて頂きました。

働き方変革と一言で申せますが、現場は様々ですし、新しい働き方を浸透させる時間も必要ということもあり、その道のりは長期の取り組みとなります。
まずは未来像を定め、それに向かって柔軟に対応できるシステムを構築することが必要ではないかと考えます。


※NTTデータ 先端技術株式会社のknowlerについて詳しく知りたい方は こちらから

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