はじめに
2021年2月現在、コロナ禍は食に関して大きな影響を与えています。生産者は、食品の生産計画を見直すだけでなく、新たな販路の開拓が始まっています。
その販路の一つに、海外があります。2025年に2兆円、2030年に5兆円と日本政府による輸出拡大が計画されています。以前からの海外の日本食ブームによって、日本の食品、特に高級食品を輸出することで海外に日本食を定着させることにつなげられるでしょう。
しかし、単純に日本の食品だからという理由で売れるわけではありません。食品のブランドを浸透させることが大切です。
これまでの海外拠点に赴き、販促活動をするといった従来の取り組みが困難な今、デジタルなチャネルを用いた販売方法を採用する動きが出てきています。他方、信頼されるブランドの商品として認識されるために、その商品の品質をシステマティックに説明する動きがあります。
NTTデータでは、いくつかの実証実験を通じて、デジタル技術を活用し高級な食品の輸出について評価してきました。グローバルに通用する食のブランドの確立に向けて、デジタル技術は何を果たすのかを紹介します。
ブランド確立に向けてデジタル技術は何に寄与するか
お米、肉といった食品において、ブランドが確立している食品はその他のものに比べて高値で販売されます。”寒暖差激しい土地で生育された~”や”大草原で放し飼いして~”のようなエピソードもセットとなります。これまでは、東京の百貨店で購入できるとか、有名なレストランで採用されたとか、コンテストで優勝したとか、多くの取り組みがありました。
また、インターネットの普及により個社での情報発信、SNSの普及により口コミによって確立したものも多いです。海外に向けても、販促、訪日外国人による購買等によって、浸透してきました。
ところが、コロナ禍の現在、これまでと同じ方法でブランドを形成することは難しいです。一部の生産者においては、SNSを通じたD2C(Direct to Consumer)を採用し、食品の販売を進めています。例えば、動画サイトでライブ映像による宣伝方法です。食品そのものに加え、エピソードも消費者に認識していただく取り組みが始まっています。
この状況において、具体的なデータを提供すれば、食品が売れるのかというアプローチがあります。例えば国産牛のトレーサビリティのようにその出自が分かることで、ブランドが作られるとともに食品が売れるのかという試みです。
その中で、海外輸出に向けて日本でも高値で扱う食品をデジタル技術により情報管理し、その効果を評価する実証実験を実施しました。ブランド確立として商品の出自を明らかにすることに加え、輸送時の温度管理が適切であることや輸送にかかった時間を明確にすることという点を管理し、海外の消費者にそのデータを提供しました。そして、このデータが、ブランド力向上に貢献するか評価しました。
この実証での情報管理方式として、以下のようなデジタル技術を採用しました。
情報収集のためのデジタル技術 : IoTデバイス
生産現場や輸送に関する位置情報、輸送時の温度情報を人の手を介さず情報収集します。収集した情報は4Gネットワーク等で流通させます。
食品を識別するための技術 : 二次元コード
生産された食品を識別するために二次元コードを付与する。食品を扱う箱等に貼り付けます。輸送経路上で箱の中身がすり替えられることを防ぐために、コードの状態も管理します。二次元コードを読むスマートフォンアプリケーションもセットで利用します。他の方法としてRFIDタグを利用する方法もございます。
情報管理のためのデジタル技術 : ブロックチェーン
生産から販売といった工程は複数の企業が関与するため、その工程で得られる情報をある一社で担うことは難しいです。それぞれの企業が生成した情報を扱うためにブロックチェーン(分散台帳技術)を採用します。ブロックチェーンの特徴である改ざん耐性により、セキュアな情報管理を実現します。

特に、暗号資産の流通で利用されているブロックチェーン技術を利用する点がポイントです。食品輸出に関連する企業や組織でネットワークを構築し、情報を登録します。登録された情報は食品の輸出情報の可視化だけでなく、将来の本格的な輸出に向けて、分析のためのデータソースとしても利用できるようになります。
上記デジタル技術による食品輸出プラットフォームにより、食品の輸出および情報を管理します。ブロックチェーン上に記録された情報として、食品がいつ出荷され、どのような温度で輸送され、いつお店に到着したかの情報を消費者は確認できます。
この情報は海外の消費者にも良い評価を得ることができました。事後のアンケートで、可視化されていない食品よりも高値で購入しても良いというコメントやこのような情報がブランド力向上にも貢献するだろうというコメントを頂きました。

ブランド確立に向けたデジタル技術導入の課題と解決策について
実証を通じて、デジタル技術がブランド力向上に向けて効果があることを確認できましたが、同時に実用化に向けての課題も明らかになりました。ここでは代表的なポイントを3点述べます。
- ポイント1. 導入コスト
IoTデバイス、RFIDタグなどの機材は、1つあたりの単価は2桁円以上となることや、再利用が困難なものも多いことを踏まえて選定しなければなりません。実証では、情報収集を確実に行うために、自律的に通信できる高性能なIoTデバイスを利用していました。しかし、そのようなIoTデバイスを多数の食品輸出のために、常時利用するためのコストは現状高いです。そのため、IoTデバイスの低コスト化に加え、再利用するための回収フローの確立や、通信方式の見直しといった点が改善点となります。 - ポイント2. 情報管理の形式
様々な企業が独自の書式を利用しているとその情報を紐づけなければならず、 関与する企業が増えるほどその組み合わせが爆発的に増加するため、超えなければならない壁として立ちはだかっています。実証では、GS1と呼ばれる国際規格を採用し、標準的な情報管理を実施しました。 日本でもここ数年GS1に沿った情報管理が浸透し始めています。海外輸出においては必要な要素です。 - ポイント3. 生産現場へのデジタル技術導入
IoTデバイスの設置や二次元コードやRFIDタグの読み込みなど、実際に作業する方の作業フローに組み込むことが課題です。ある実証では、RFIDタグを段ボールの適当な位置に貼ってしまったため、スキャンできず情報収集できなかったということもありました。そのため、実用化に向けては機材操作を作業フローに浸透させるトレーニングもセットとなります。

そして、一社単独で進めるのではなく、この取り組みに賛同する企業同士や各種機関を巻き込んで、検討していくことが必要です。また輸出を踏まえると相手国の企業、税関といった機関も巻き込みが大切になります。他のブランドとともに皆でブランドを高めていくことで、類似する取り組みのコスト削減につながります。当社の実証でも企業や各種機関を巻き込みました。実用化に向けてはそれらの組織と一緒にルールを作り、食品輸出に関するシステムを創り上げます。
また、食品そのものの美味しさのデータ化や生産時にどのような肥料や薬品を利用しているかなど、輸送工程だけではない情報の管理も必要です。デジタル技術はこれらの情報を扱うにも寄与していくでしょう。
まとめ
本記事は、グローバルに通用する食品ブランドの確立に向けてデジタル技術が何に寄与するかを当社の実証を通じて紹介しました。食品の出自や輸出に関する情報管理、可視化を通じて、ブランド力は向上します。地方に潜んでいる高価な食品が世界中に届けていくことで、その地方が潤い、活性化していきます。新たな価値創出の仕組みの確立をこの取り組みの実用化を通じて、推進します。
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