はじめに

近年、クラウドがビジネスにもたらす価値を享受するために、企業や組織全体でクラウドの利用を推進するチーム「クラウド活用推進組織(Cloud Center of Excellence)(以下、CCoE)」を立ち上げるお客様が増えています。
しかし、CCoEを立ち上げて満足してはいないでしょうか。
クラウドの活用を進めていく中で、CCoEの役割や取り組むべき内容も大きく変わっていきます。
本稿では、CCoEを組織に導入後、組織の成熟度に合わせてどのようにCCoEを成長させていくかについて、事例とともにご紹介します。

クラウド導入においてお客様が歩むフェーズ

まず、企業においてクラウドの導入がどのように進んでいくか見ていきましょう。
クラウドの活用は、以下のような段階を経て徐々に組織に浸透していきます。

このように、クラウドは導入したら終わりではありません。
時間の経過とともに組織もプロセスも成熟し、CCoEを取り巻く環境は大きく変化していきます。
そのため、それに合わせてCCoEも変化していくことが重要です。

クラウド活用が進む中で変化するCCoEの活動とその課題

続いて、CCoEの設置形態について見ていきます。
CCoEの設置形態には大きく、独立組織型、組織横断型、情報システム部門内型の3種類があります。

独立組織型専任チームを組成する形態です。
DXに対する経営ビジョンを早期に実現するため、専任チームがガバナンスや意識改革、アーキテクチャの設計などを行い組織に展開します。
組織横断型事業部門、IT部門、リスク管理部門等からなる組織横断のチームを組成します。
各部門がクラウド展開に必要な役割を分担し、クラウド化を推進します。
情報システム部門内情報システム部門の下にチームを組成します。
クラウド人材の育成やセキュリティ・リスク管理、クラウドのアーキテクチャ設計に重点を置いてクラウド化を推進します。

日本では情報システム部門内にCCoEを組成し、クラウド関連の活動を全てCCoEに一元化している事例が多いですが、この方式ではDXやクラウドの利活用の推進がうまくいかなくなるケースも多く聞かれます。
一般的に、クラウドの利用部門や利用システムが増加するとCCoEのタスクも増えていきます。
CCoEがクラウドに関するすべての権限を持っている場合、CCoEのリソースが足りなくなり中央集権的な形態では利用者の多様なニーズに対応できなくなることが要因です。
そのため、組織全体でクラウド推進活動を行うために、組織の成熟度に応じてCCoEの権限の一部をプロジェクトや既存組織に委譲することが重要となります。
その際は、ニーズに対応しつつガバナンスも確保するための環境を整えることがポイントです。

CCoEの活動を見直した事例

このように、CCoE はクラウド推進活動が組織全体で最適な状態になっているか確認しながら柔軟に変化していくことが求められます。
それでは、実際の事例を見てみましょう。
ご紹介するのは、クラウドの活用範囲の拡大に伴いCCoEの一部権限をプロジェクトに委譲したお客様の事例です。

1.CCoEが忙しすぎてクラウド活用が進まない!?

お客様はクラウド基盤を全社に開放し、柔軟で新規性の高いシステム開発を促進することをめざしていました。
一方、クラウド関連の活動は全てCCoEに一元化し基盤運用を行っており、利用可能なクラウドサービスや権限を制限していました。
当初順調に活動していたCCoEですが、クラウド利用組織が増加する中でCCoEの作業も増え、環境構築にリードタイムがかかったり、新しくローンチしたクラウドサービスをすぐに利用できずクラウドの活用が十分に進まないという課題が出てくるようになったのです。

2.CCoEの新たなチャレンジ

利用者拡大により多様化するニーズにこたえることが困難となったため、CCoEの役割の見直しを行いました。ポイントは以下の通りです。

  • 利用者への権限移譲による開発高速化の実現
    • 現在のクラウド基盤運用を見直し、CCoEが担うべき運用と利用者に任せる運用を整理
  • 開発のセルフ化とセキュリティの両立
    • 権限移譲により開発のセルフ化を実現する一方、セキュリティリスクのある操作は制限するよう、リスクのあるアクティビティや状態を抽出し、利用者に許可する権限を整理

現在も活動は継続中で、PoCとしてアジリティとセキュリティを両立させる環境を提供するためにセキュリティガードレール機能の検証や運用時の作業フローや役割の明確化を行っています。

3.本事例におけるポイント

このように、CCoEは最初に決めた責任範囲や権限が現在も適切か、適宜見直しを行いながらあるべき方向に導く必要があります。
また、クラウドの活用にはメリットもありますが、クラウド特有のリスクも存在します。
リスク対策が適切かといった検証をリスク管理に取り組むことで、クラウド活用の推進を図っていくことが重要です。

まとめ

本稿では、CCoEを組織に導入して、正しく機能させるためのポイントを紹介しました。
クラウドの活用は段階を経て組織に浸透していきます。
その過程で、CCoEに求められる役割や権限も変化していきます。
そのため、CCoE はクラウド推進活動が組織全体で最適な状態になっているかを常に確認しながら柔軟に活動内容を変えていくことが求められます。
本内容が、CCoEの活動を検討されている方々の参考になれば幸いです。