はじめに
「両利きの経営」と言われるように、近年既存ビジネスと新規ビジネスの両立が重要視されており、新規ビジネスへの幅出しにチャレンジする企業が増えています。
そこには様々な難しさがありますが、担当者目線として、企画に対して上位者にどのように納得してもらい予算承認を得るかは、非常に頭を悩ませる部分です。
とりわけ、よくある躓きとして、企画の初版作成まではスムーズにいくが、その後の具体性や実現性にまで踏み込んだ内容まで昇華しない(=絵に描いた餅で終わる)ケースが挙げられます。
こうしたケースに、担当者としてどのように立ち向かえばよいでしょうか。
この記事では、その解決のヒントをご紹介します。
とある企業における企画の困り事例
ここで、あるエピソードを紹介しましょう。
金融業界の大企業で企画業務に携わるAさんは、BtoBで革新的だと感じるビジネスアイデアを思いつきました。
早速企画書をまとめ、企画の初版レベルで上位者とも合意を得られました。
でも、なぜかそれ以降には進まず、担当者であるAさんは困りました。
さて、何が問題だったのでしょうか。
1.ユーザー視点がなく、具体性に欠けている
Aさんの問題は、そのビジネスアイデアが実際に利用するユーザーにとって本当に欲しているものかという、ユーザー視点での検討を置き去りにしたまま企画検討を進めていた点にありました。
企画の初版レベルでは皆がいいねと言ってくれましたが、それはあくまで自社の強みを活かせるといった「筋が良い」という意味合いでの賛同です。
多くの場合、新規ビジネスの企画段階では、ビジネスアイデアの元となるユーザー課題は仮説の状態です。
そのため、ユーザー候補が本当に抱えている課題かどうかは、その仮説設定が妥当かについてユーザー視点で検証しなければ分かりません。
Aさんはユーザー視点を持たず、このプロセスを欠いていたため、具体性・納得性に乏しい企画となっていました。
- ユーザー課題を検証する方法は様々ありますが、今回は次の4つのステップを踏むことが有効な解決策でした。
- ビジネスモデルをリーンキャンバス等のフレームワークに沿ってきちんと言語化する。
- 言語化されたビジネスモデルの中で、仮説立てているポイントを明確化する。
- 仮説を検証するためのプロトタイプを作成する。
- プロトタイプを元にユーザー候補からフィードバックを得て、改善を検討・実施する。
この事例では、二か月間という短期間で、リーンキャンバスを用いたビジネスモデル整理と、プロトタイピングツールであるFigmaを用いたプロトタイプ(操作可能な画面モックアップ)開発を行いました。
また、期間内に複数のユーザー候補に実際にプロトタイプを操作してもらうことで、課題仮説の検証を行い、改善点を明確化しました。

なお、この段階で開発するプロトタイプは正しく機能する必要はありません。
お客様の中には、この段階で実際に動作するアプリケーションを実装(コーディング)することを考える方もいらっしゃいますが、この段階では予算・時間も限られているため、なるべく短期間ですばやく開発することがポイントです。
Figma等を使った操作可能な画面モックアップの良い点は、ビジネスアイデアを、体験可能な手触り感のあるモノとして素早く具現化し、ユーザー候補との議論と改善をクイックに繰り返せる点にあります。
プロトタイプにも様々な手法があるため、目的・フェーズに応じて必要な手法を選択することがポイントです。
本事例では、ユーザー候補から「こういった点に困っている」「こうしたらもっと良い」と言った具体的なフィードバックを多く得ることができ、それを元にビジネスアイデアをブラッシュアップすることができました。
これにより、短期間でユーザー課題の検証を行うことができました。
2.技術的な実現性に欠けている
Aさんのもう一つの課題は、企画段階とはいえ、ビジネスアイデアの技術的な実現性についてまったく考慮してなかった点でした。
その結果、上位者にとって納得性のあるものになっていませんでした。
企画段階といえど、ある程度技術目線でフィージビリティを確認しておかなければ、後々に頓挫するといったこともあり得ます。
そのため、この段階で、採用するソリューションの特性に応じた主要な技術要素を最低限でもよいので特定しておく必要があります。
特に近年、プラットフォームビジネスのように規模やスコープが大きかったり、未成熟な先進技術を思い切って活用する等、ビジネスとしての難易度だけでなく技術的な難易度が高い新規ビジネスアイデアも増えています。
そのため、技術面での早期のフィージビリティ確認の重要性が以前よりも高まっているといえます。
本事例では、Aさんは予算と時間の制約を鑑みて、事例・経験を持つ弊社のテクノロジーコンサルタントの力を借りることを決断しました。
その中で、どのような技術をどのように活用すればビジネスアイデアの実現が可能かというフィージビリティ確認を推し進めました。
Aさんは、上記のプロトタイプによる仮説検証と技術的な実現性の事前確認を推し進め、アップデートした企画内容を上位者に報告したところすぐに納得され、コンソーシアムの組成などの大規模なユーザー検証に進み、プロジェクトを前進させることができました。
新規ビジネス創発活動のプロセス
Aさんの例にもあるとおり、新規ビジネスの創発はやみくもに進めてもなかなかうまくいかず、ある程度確立された一定のプロセスにしたがって進めることが成功への近道です。
NTTデータでは、新規ビジネス創発の成功ノウハウをまとめた「Enterprise BizOps」という方法論に基づいた新規ビジネス創発を担う組織を支援するサービスを提供しており、今回の事例もこのサービスが定義するプロセスに沿って実施されました。
次の図は、Enterprise BizOps に基づきお客様の新規ビジネス創発をご支援する際のプロセスです。
先の事例は「アイデア壁打ち」の部分にあたります。
確立されたプロセスに沿って進めることで、例えば製品・サービスを市場にローンチした後、実はマーケットのニーズがなく失敗に終わるといったことが起こる確率を低減させることができます。

おわりに
この記事では、新規ビジネス創発活動において、ビジネスアイデアをいかに具体性・実現性の観点からブラッシュアップし、上位者にとって納得性のあるものとするかについてご紹介しました。
新規ビジネス創発では、ビジネスとしての成否そのものをコントロールすることは難しいですが、成功確率を高めるプロセスを採用しコントロールしながら進めることはできます。
また、洗練されたプロセスを個人にとどまらず組織にも適用することで、より大きな効果を得ることが期待できます。
新規ビジネス創発の中で、ビジネスアイデアの具体化が進まないという悩みを抱えている方は、まずは本記事でご紹介したプロセスを意識しながら取り組んでみてはいかがでしょうか。
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