本連載の第1回第2回ではPower Platformを導入することのメリットを中心に解説しました。
一方、Power Platformも含めたDXの推進にあたっては次のような課題をよく耳にします。

  1. 方法の課題
    ローコード/ノーコードツールの使い方が分からない。
  2. 予算の課題
    DX導入や人材を育成するための予算が無い。
  3. 動機付けの課題
    現場や経営層からDXの理解や協力が得られない。

これらは弊社がDX推進の支援をしたお客様からも相談を受けた内容です。
このような課題が壁となりDXになかなか着手できずにいる方も多いのではないでしょうか。
そのような方々を対象に本記事では3つの課題のうち、「1. 方法の課題」「2. 予算の課題」の対処をして「DXのはじめの一歩」を踏み出すヒントを解説していきます。
なぜこの2つかというと、これらは追加投資不要で対処できる課題だからです。
つまり「予算が不要 = 経営層や管理層の承認が不要」であり、やろうと思えば今すぐにでもできる内容になっています。

マイクロソフトは多くのコンテンツを「無料」で提供している

これまでの連載でもPower Platformのメリットを解説してきましたが、今回のテーマに関わるポイントは「無料」ということです。
具体的には次のものが無料で利用できます。

  • 学習コンテンツ
    Power Platform開発スキルを身につけるための公式学習コンテンツが提供されています。
    また学習用途などで利用するための開発環境も無料で入手できます。
  • Power Platformの導入
    Microsoft 365を導入済の場合は追加投資なしでPower Platformを導入できます。

これらの無料コンテンツを利用すれば「1. 方法の課題」「2. 予算の課題」の両方を解決することができます。
以降具体的な方法を説明していきますが、2023年2月現在の内容をもとに記載しており、時期によっては異なる場合があることにご留意ください。

無料学習コンテンツを利用してPower Platform開発スキルを身につける

全体の流れ
No目的方法
1Power Platform開発環境を手に入れる無料でPower Platform開発が出来るライセンスを取得する
2Power Platformでローコード開発をする手順を学ぶ公式の無料e-Learningを参考書代わりにする
3業務でのPower Platform活用法を考える豊富なサンプルを業務効率化のアイデア、開発に活用する

(1)Power Platform開発環境を手に入れる

開発スキルを身に着けるには実際にアプリを色々作ってみるのが一番の近道です。
そのためまずはPower Platform開発をするためのライセンスを取得します。
ここではなるべく手間とお金を掛けずにPower Platformが使えるプランを紹介します。

  • Power Apps開発者向けプラン
    永年無料ですが利用するにはいくつか条件があります。
    • 所属している会社がOffice 365を導入している
    • 会社で使用している自身のメールアドレスでサインインする

このように会社が契約しているOffice 365を利用するパターンです。
会社がOffice 365を導入済であればすぐに利用できるので、とりあえずPower Platformを触ってみたいという人はこのプランが一番お手軽と思います。
注意点として、ほとんどの場合セキュリティ上の理由により社内のネットワークからしか利用できないようになっていることです。
試しに私が自宅から会社のメールアドレスでサインインしようとしたら遮断されていました。

  • Office 365開発者プログラム
    自己研鑽として自宅など会社以外の場所からPower Platform開発をしてみたい人もいるでしょう。
    その場合はこのプランを利用します。
    基本は90日間の期限付きなのですが「有効な開発者の活動が継続する限り」無期限で3か月ごとに更新されます。
    「有効な開発者の活動が継続」の定義が曖昧なのですが公式のFAQには以下のように書かれています。

2019年4月に、開発に積極的に使用している場合は、90日ごとにサブスクリプションを永久的に更新できる新しいモデルに移行しました。
このモデルにより、積極的にソリューションを開発している開発者が、必要な限りサブスクリプションを持てることを担保できるのではないかと考えたのです。
頻繁に開発している場合は、サブスクリプションの有効期限が切れることがありません。
自動的に延長されます。

出典:Microsoft社(Microsoft 365 開発者プログラムの FAQ)
(Microsoft.comに移動:Microsoft 365 開発者プログラムの FAQ | Microsoft Learn
  • 恐らく90日間に1度アクセスするだけではダメだと思います。
    参考までに私の場合ですが、Power AppとPower Automateでアプリ開発をしていたら自動延長されました。
    作ったアプリの数は10個も無いので、そんなに厳しい条件ではないのかもしれません。
    また期限切れになっても新たに申し込むことはできるので気にしない人はこのプランでよいと思います。

(2)Power Platformでローコード開発をする手順を学ぶ

マイクロソフトは自社製品の使い方や開発方法を学ぶための公式学習コンテンツをいくつか提供しています。

  • Microsoft Learn
    Microsoft Learnは無料で利用できる学習用Webサイトです。
    テキストを読んで学習するタイプのコンテンツで以下の特徴があります。
    • 参考書数冊分の学習が用意されている
      学習時間にして80時間超の量があります。
      市販の参考書数冊分(もしかしたら十数冊分)に相当する量なので初学者の方はこれだけで十分な知識を得ることが可能です。
      これだけの内容を無料で公開するマイクロソフトはとても気前がいいと思います。
    • 座学だけでなく演習があるため実践的
      ただ長いテキストを読むだけでは眠くなるでしょう。
      Microsoft Learnではステップバイステップでアプリを構築するなどの演習も含まれています。
      実際に手を動かすことは理解の助けになるので効率よく学習することできます。
    • 無料でMicrosoft 認定試験が受けられるイベントを定期的に開催している
      指定されたMicrosoft Learnコンテンツを学習すると、Microsoft 認定試験を無料で受験できるバウチャーが貰えるイベントを定期的に開催しています。
      最近では2022年10月に「Microsoft Build Cloud Skills Challenge」という名称で開催されました。
    • (Microsoft.comに移動:https://learn.microsoft.com/ja-jp/training/browse/?products=power-platform
  • またPower AppsやPower AutomateのページにもMicrosoft Learnコンテンツへのリンクが掲載されています。
  • Microsoft Virtual Training Days
    Microsoft Virtual Training Daysは定期的に開催されている無料トレーニングイベントです。
    こちらはMicrosoft Learnとは異なりオンラインセミナー形式で実施されています。
    初心者~中級者向けの内容が主ですが、初心者向けのセミナーは受講するとMicrosoft 認定試験の受験バウチャーが貰える特典が付いてきます。
  • (Microsoft.comに移動:https://www.microsoft.com/ja-jp/events/top/training-days

【おすすめのe-Learning利用法】

  1. Microsoft Lean「PL-900: Microsoft Power Platform Fundamentals」を履修
    このラーニングパスではPower Platformの概要説明から始まり、Power Apps、Power Automate、Power BI、Power Virtual Agentsの構築をステップバイステップで学ぶことができます。
    Power Platformの各製品でアプリ構築を行う演習が含まれており、また製品同士の関連も理解できる内容になっているので、未経験の方がアウトラインレベルの知識を身に着けるのに適しています。
  2. Microsoft Virtual Training Daysで受験バウチャー付属の「Power Platform の基礎」を受講
    「Power Platform の基礎」という名称で初心者向けのオンラインセミナーが定期的に開催されています。
    前述の「PL-900: Microsoft Power Platform Fundamentals」と合わせるとPower Platformの理解がより深まる内容となっています。
    またこのセミナーを受講すると、通常12500円かかるPower Platformの認定試験(Microsoft Certified: Power Platform Fundamentals)が無料になるバウチャーが貰えるので大変お得です。
    バウチャー特典はいつまで続くか分からないので、貰えるうちに貰っておいて資格取得を目指すのも良いでしょう。

(3)業務でのPower Platform活用法を考える

DXやローコードで業務効率化する際に次のような悩みをよく耳にします。

  • 何をすればよいのか、何ができるのか分からない
  • 業務効率化のアイデアが沸かない

これらの解決策として、Power Platformに用意された多数のテンプレート(サンプルアプリ)を活用する方法を提案します。

  • テンプレート一覧から何ができるのかを理解する
    Power Platformには製品毎(Power AppsやPower Automateなど)に多数のテンプレートがあり、内容も多岐にわたります。
    まずはテンプレートの一覧をざっと眺めて、できることを大まかに理解するのが良いでしょう。
    眺めているうちに業務効率化のアイデアが沸いてくるかもしれません。
  • テンプレートからアプリを作成する
    もちろんテンプレートを基にしてアプリを作成することもできます。
    自社の業務にピタッとはまりそうなテンプレートを見つけたら、少しの修正で作成・配布できることもPower Platformの強みです。

以下各アプリのテンプレート確認方法と、おすすめのテンプレートを紹介します。

  • Power Apps
    【確認方法】
    Power Appsのサイトにテンプレートがあります。
  • 【おすすめテンプレート】
    「Leave Request」
    上司へ休暇申請し承認を得るためのテンプレートです。
    休暇に限らず承認を必要とする業務はどの会社にも存在するので、これをもとにして様々な承認業務を効率化するアプリを作るのも良いでしょう。
    使いやすいテンプレートだと思います。
  • Power Automate
    【確認方法】
    Power Automateも同様にサイト内にテンプレートがあります。
  • またPower Automateはコネクタを使いこなせるかが開発の肝になります。
    どんなサービスやアプリと連携できて何ができるのかを把握しておくと良いでしょう。
    コネクタの一覧は公式サイトから確認できます。
  • (Microsoft.comに移動:https://powerautomate.microsoft.com/ja-jp/connectors/
  • 【おすすめテンプレート】
    「電子メールをチャネルに転送する」
    電子メールをTeamsのチャネルに転送します。
    転送先はチャネルだけでなくグループチャットや特定のユーザーも指定できます。
    私の場合ユーザーサポート業務で次のような使い方をしています。

    • ユーザーの問い合わせ先となっているメールアドレスに届いたメールを、サポートチームが使用するTeamsチャンネルに転送する
    • Teamsに転送されたら対応する人の調整やノウハウの共有をTeams上で行う

    もうメーラーよりはTeams等のチャットツールをコミュニケーションハブにするのが主流の時代ですので、なるべくそれに沿うような使い方をしています。
    こうしておくとチーム内での調整時に「○月○日○時○分に届いたメールの件ですが・・・」などの書き出しが不要になり、クイックにチームメンバーとやりとりできるので便利です。
  • Power BI
    【確認方法】
    Microsoft Power BI Communityというサイトで世界中のユーザーから投稿されたレポートが公開されており、見ているだけでも結構楽しいです。
    なお本サイトに公開されているレポートはテンプレートとして利用することはできません。
  • (Microsoft.comに移動:https://community.powerbi.com/t5/Data-Stories-Gallery/bd-p/DataStoriesGallery
  • 【おすすめのレポート】
    「Commercial Business」
    棒グラフ、面グラフ、マップ、ツリーマップなど業務でも多用するグラフで構成されたレポートです。
    グラフ内の各要素(例えば地図上部にある「South West」や「North West」と書かれた地域選択など)をクリックすると、選択内容に合わせて地図の表示地域や他のグラフ(棒グラフや面グラフ)の表示内容が変わるスライサーの機能を試すことができます。

Power Platformの導入

前述のとおりMicrosoft 365を導入済の企業は追加投資なしで今すぐPower Platformを利用できます(既に導入済の状態です)。
Microsoft 365のページにログインした後、ベントウメニューをクリックするとPower Appsなどのメニューが表示されます。

おわりに

ここまでできれば、Power Platformを使って実際の業務を効率化することができるでしょう。
第2回でも解説しましたが、まずは日常的な単純作業を効率化することから始めるのが入り口として良いと思います。
そうすると業務効率化の効果が見えるようになるので、その結果をアピールポイントに「3. 動機付けの課題」へ対処に繋げていきましょう。

DX成功のポイントは「継続」と「定着」です。
これまで説明したとおりPower Platformは今すぐに1人だけでも始められます。
まずは自分だけでもDXの「継続」「定着」を続けてみるのはいかがでしょうか。
いずれは味方も増え、会社全体にDXの熱を行き渡らせるようになるかもしれません。

※記載されている会社名、団体名、商品名、またはサービス名は、各社の登録商標または商標です。