はじめに

皆様の企業では、AIを活用した業務変革に備えていますか? 全労働者の80%は大規模言語モデル(LLM:Large Language Model、以後LLM)による業務影響を受ける可能性があるとの研究結果もあります。
今後AIを戦略的に活用することは競争力を高めるために非常に重要で、これは企業の将来に大きな影響を与えると言っても過言ではありません。

ChatGPTは2022年11月のサービス提供後、大きな注目を集めています。
ChatGPTの特徴は、シンプルな質疑に留まらない「多様な用途への対応」です。
幅広い情報が既にインプットされていることにより、様々な分野で汎用的に利用することが可能となります。
この特徴を実現するために必要な技術こそ、今回のテーマであるLLMです。

LLMとは、大量のトレーニングデータに基づき、単語の意味・言語構造を統計的に学習したモデルです。
学習データが多いほど、重み付けやバイアス等の変数(パラメータ)が増え、より自然に近い言語処理ができるようになります。
特にGPT3.5では3550億パラメータがあるとも言われており、今後更に大規模なパラメータ数を持つモデルが開発されると思われます。

このLLMを企業が活用する際にポイントとなるのが、特定のタスクに適用することを目的としたモデルの調整手法です。
今回は、代表的な手法である「ファインチューニング(Fine-tuning)」についてご紹介いたします。
ファインチューニングは、既に学習済みのモデルに対し、独自データを追加学習させる手法です。

図1:LLMのファインチューニング(追加学習)

ファインチューニングを行う際のポイントは、LLMのもつトークン制限(一度に処理のできる言語単位数の制限)の性質です。
多くのLLMは、処理のできるデータ量に制限があるため、関連文書に当たりをつける必要があります。そのため、文書検索サービスと組み合わせることで、質問の意図に合致したドキュメントを処理できる単位で読み込み、回答を生成することができます。

なお、独自のデータでファインチューニングしたLLMは、エンタープライズサーチ(企業内外のデータを統合的に検索できるようにする仕組み)として注目されており、様々な業務で活用事例が増えています。
従来はAIの正確性を向上させるためには、専門知識を持つ技術者がチューニングを行う必要がありましたが、既に大規模なデータで学習済みのモデルを利用することでチューニングの負荷が低減され、わずかな追加学習データで高精度な回答を得ることが可能となり、一層扱いやすいものとなりました。

図2:LLMによるエンタープライズサーチの実装

本記事では、このLLMの持つ可能性について、ビジネスへの適用事例とともにご紹介をさせていただきます。

LLMの適用事例

LLMのビジネス適用事例として広がっているのは「社内ナレッジに即して業務サポートをする側近」としての使い方です。
社内には、自社が提供するサービスの規定や社内のプロセス・ルール、さらには議事録や社内企画書等の様々なナレッジ情報が溢れています。
これらの大量の情報から、対話を通して、自分の必要とする情報を抽出し、業務に活用できるよう成形してサポートしてくれる側近です。具体的には、以下のような適用が進んでいます。

  1. 新規サービス規定に関する社員FAQ対応による業務負荷のオフロード
    • 新規サービスを短いサイクルで提供するコンビニ等の小売業では、新規サービス展開時に、社内周知をかけるだけでなく、社員からの問い合わせ対応にLLMを適用しています。
      特に問い合わせが増える新規サービスを対象にすることで、FAQ対応をオフロードし、本当に人手が必要となる業務だけ取捨選択するように図られています。
  2. あいまい性のある顧客問い合わせに対する対応支援
    • 旅行業では、体験・体感したいことや、感情に合う旅行先の相談を受けるため、あいまい性のある問い合わせに対して、LLMを適用し、対話を通してニーズに近い旅行先を探し当てることが取り組まれています。
      また、このやり取りを通して、窓口対応員のレベルの底上げを狙い、経験の少ない対応員でも一定品質の回答ができるよう属人性改善にも取り組んでいます。
  3. 追加学習データ連携よるパーソナライズ性の高い回答作成
    • さらに旅行業では、旅行客から、SNSの口コミやトレンドを踏まえた観光地相談を受けるケースが増えています。
      SNSの事前チェックや足で稼ぐような情報収集をしており、多大な稼働を要しています。
      そのため、SNSの口コミデータを取得し、追加学習データとして取り込むことで、希望に合う観光地の提案検討に活用しています。
      また、顧客属性や旅行履歴等のCRMとの連携も行うことで、顧客の趣味趣向に合うような観光地を優先度付けして提案することによる顧客満足度向上を図られています。

LLM適用における意識すべき用法用量

LLMの適用事例を見ると、どの事例も「業務ハックを支援するナレッジマネジメントの取り組み」の側面があります。
ハックとは、仕事の質や生産性を上げる工夫や取り組みを指す言葉です。
つまり、LLMという側近が、社内ナレッジを組織の競争優位の源泉として掘り起こし、業務への活用を活性化させる取り組みとも言えます。
この取り組みを成功させるためには、LLMの用法用量を守り、LLMを上手く使いこなす必要があります。適用事例から意識すべき用法用量は以下の点です。

LLMは言語の繋がりから確からしい文章の生成は可能ですが、ユーザの背景に即した内容かは利用者が確認する必要があります。
また、LLMは学習データをそのまま活用して出力するため、重要データが隠れていてもそのまま出力される可能性があり、情報漏洩リスクがあります。
一部のサービスではこのようなセキュリティリスクに対応しているため、セキュアな環境下での利用やデータの区分定義による制御等も活用検討での考慮ポイントになります。
さらに、これらの特性を踏まえて組織全体として安全に利用するための社内ルール整備が必要です。

LLMの登場により、新しい業務スタイルの形が具体的に登場し始めています。
LLM適用には意識すべき用法用量もありますが、これらを組織全体に共通知として浸透させることで、LLMの本領を発揮させるような業務適用が今後より進んでいくものと思います。

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