はじめに
本稿は”IT資産をクラウド化することの難しさ”と題して、お客様の既存IT資産のプラットフォームとしてパブリッククラウドを活用する際の論点とポイントをご紹介します。
ここ数年、お客様からのパブリッククラウドに関する相談が増えています。
パブリッククラウドが持つ調達容易性や経済合理性に着目したり、他社の導入事例を見聞きし、導入を検討されるお客様が後を絶ちません。
相談の内容は大別すると次の2パターンです。
①新たなサービスをローンチしたい。パブリッククラウドでの適切なアーキテクチャを知りたい。
②既存のIT資産群をパブリッククラウドに持っていきたい。メリットやリスクを踏まえて適切に使いたい。
①に関しては特に問題になることはありません。
概して、お客様も事前にパブリッククラウドの特性を調査・認識されていて、よほどのノックアウトファクターが露呈しない限り、基礎検討から設計・構築、サービスインまで、事はスムーズに運びます。
他方、②に関しては往々にして道のりが険しくなりがちです。
その理由は何か?その状況を打破するためには何が必要か?私の経験をもとに詳しく説明したいと思います。
②のお客様は、過去十数年または数十年の間にオンプレミス環境やプライベートクラウド環境に構築された用途も構成も様々な多数のシステムを抱えており、それらを順次パブリッククラウドへ移行することでTCOを削減することを期待しています。
同時に、対象が既存IT資産であることから、現状のサービスレベルを損ないたくないという懸念も抱かれています。
IT資産のアセスメント
このような「パブリッククラウドのメリットは享受したいが、リスクは被りたくない。」という構図の中、我々は、お客様がパブリッククラウドの導入にあたっての方針や基準を策定するため、既存IT資産のアセスメントを行います。
個々のシステムのプロファイル情報をもとにパブリッククラウドを活用する/しないの全体ベースラインを作り、納得感や安心感のあるパブリッククラウドの導入を計画、推進するためです。
ところが、いざアセスメントを始めてみるとなかなか思うように進められない状況に直面します。
多くのお客様は、既存IT資産の一覧、いわゆるシステムカタログを持っているのですが、そこにはシステムごとの主管組織や問い合わせ先、ハードウェア、OS、一部ミドルウェアの情報が記載されているに留まり、パブリッククラウドのメリットを享受できるかどうかを見極めるために重要なインジケーターとなるSLAやワークロード特性といった情報が欠如していたり曖昧なため、その是非を判断することが困難になります。
加えて、長年の運用を経て、開発部門と運用部門の分裂や、当時の背景を知る有識者の交代といった理由が、情報の収集や妥当性の評価をさらに難しくしているという側面もあります。
収集すべき情報の観点
もちろん、既存のシステムカタログやプロファイル情報そのものを否定している訳ではありません。
ただ、クラウドサービスの導入や活用を念頭に置いた場合、収集すべき情報の観点や粒度が変わってくるということです。
多くのシステムにはピーク特性があります。このピーク特性を把握すれば、パブリッククラウドの拡縮性の仕組みでコストを適正化できます。
小規模のシステムは、月あたりのリクエスト数を把握すれば、サーバレス化によってコストを圧縮できます。
データベースアクセスの参照と更新の割合を把握すれば、リードレプリカによってコストとキャパシティのバランスを保つことができるでしょう。
一方、業務継続性の観点でDR(Disaster Recovery)環境が必要なシステムは、キャパシティ予約を前提にすると、期待したほどのコスト削減は見込めないかもしれません。
おわりに
このように、お客様にとってのパブリッククラウドの活用のしどころを精査するにあたって、システムのプロファイル情報は重要なインプットとなります。
皆様も改めて御社の既存IT資産のプロファイル情報を棚卸し、必要な情報の精査を行ってみては如何でしょうか?