皆さんはABL(=Asset Based Lending)というワードを聞いたことはありますか?
金融業界では一般的な用語ですが、日常生活においてまだ馴染みが薄い言葉だと思います。
しかし、今後ABLは注目される可能性が高く、その鍵を握っているのは最先端のデジタル技術です。
本稿ではABLに着目し、デジタル技術が貢献できることをご紹介します。

ABLとは

そもそもABLとは何でしょうか?統一した定義はありませんが、インターネットで検索すると「動産担保融資」あるいは「動産・債権担保融資」と出てくることがほとんどだと思います。
つまり、ABLは債務者が保有する動産(*1)や債権(*2)を担保に実行する融資の総称として使われています。

(*1)不動産(土地および建物などの土地の定着物)以外の空間を占めるもの(有体物)が動産である。原料、仕掛品、在庫、備品、設備等のほか、牛や豚等の家畜や養殖されている魚等も動産である。
(*2)特定の人に対して一定の行為を請求できる権利のことをいう。
出典:経済産業省 『ABLのご案内』

ABLの規模

ABLが融資の一種であると分かったところで、その規模を見てみたいと思います。
経済産業省の委託調査報告書によると、2019年度のABL融資残高総額は約2.67兆円でした。「兆」と聞くと多いように感じますが、実際そんなことはありません。
政府統計である法人企業統計調査を見ると、2019年度企業が保有する製品、仕掛品、原材料などの動産は約120兆円でした。
融資残高と担保となり得る資産の金額を比較するとABLの規模はまだ小さいということが一目瞭然です。

図 ABLの規模
図 ABLの規模
「経済産業省委託調査報告書 企業の多様な資金調達手法に関する実態調査 (2021年3月)」と「法人企業統計調査(政府統計の総合窓口(e-Stat))」を基にNTTデータが作成
表2. 法人企業統計調査
出典:政府統計の総合窓口(e-Stat)

ABLの課題

ではなぜABLの融資残高が伸びないでしょうか?その課題については、経済産業省の委託調査報告書『企業の多様な資金調達手法に関する実態調査』で詳述していますので、本稿では筆者が特に注目しているものを取り上げます。
それは「モニタリング」です。報告書の中でABLの取組を予定していない、もしくは縮小する方針をとる理由の問いに対して、回答した金融機関の48.6%が「社内に評価やモニタリングに係るノウハウがないから」を選択しています。

一方で、ABLの取組を維持、強化の方針をとる理由の問いに対して、回答した金融機関の44.6%が「取引先の取引状況をモニタリングできるから」を選択しています。
つまり、モニタリングは金融機関にとってABLからの撤退理由でもあり、継続理由でもあります。言い換えれば、モニタリングの課題をクリアできれば、ABLの取組が継続しやすくなるといえます。

なぜ取引先の取引状況のモニタリングがABLの取組継続理由になるかというと、金融機関が取引先の「今」を事業性評価ができるようになるからだと筆者は考えます。
財務諸表を使用した場合、「過去」を評価することになりますので、大きな違いがあります。

デジタル技術がABLに貢献できること

さてモニタリングの課題に対して、どのようなデジタル技術が役に立つでしょうか?
ここで触れたいデジタル技術はIoTとブロックチェーンです。
まずIoTについては、分かりやすいと思います。従来インターネットに接続できていないモノにセンサーなどのIoTデバイスを取り付けることによって、ネットワークを通じてシステムに情報を反映できるようになり、ABLのモニタリングの難易度が下がります。

近年、IoTデバイス技術は日進月歩であり、機能の充実化だけでなく、価格も安価になってきています。
特に一次産業において、IoTデバイスを畜舎や家畜の体に取り付けて、家畜の転倒、発情などの行動を監視できるまで進歩しています。また、家畜の行動監視だけでなく、IoTデバイスで収集したデータを分析して、飼育の改善に役立てることもできます。

次にブロックチェーンについてです。
ブロックチェーンの最大の特徴はデータの真正性を担保し、改ざんを実質的に不可能にすることです。また、その特徴は同じ情報に関わるステークホルダーが多ければ多いほど効力を発揮します。
ABLは一見ボロワーとレンダーしか存在しないように見えますが、近年保険会社も参入してきており、またABL案件では外部評価機関に評価依頼することが多く、実に複数のステークホルダーが関わっています。また、スマートコントラクトを活用することによって、関係者が合意したロジックに基づいてデータ分析を行い、事業性評価を行うことができます。そのほかに、ブロックチェーンを活用する副次効果として、ボロワーの製品が海外輸出する際、ブロックチェーンに格納したデータは品質証明データとして非常に有用です。

まとめ

ABLはまだまだ伸びしろのある融資領域です。その成長を妨げている大きな課題がモニタリングです。
しかし、デジタル技術の進歩によりその課題はもはや難題ではなくなってきています。
NTTデータのデジタルテクノロジーディレクターは、今後もABL×デジタル技術に注目し、仕組みの確立に向けて取り組んでいきます。

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