はじめに

デジタル技術の活用によりビジネスのあり方が変わりつつあります。
これまでは、各企業が自社ビジネスの過程・または調査等を通じ蓄積したデータ資産は門外不出であり、自社内のみで分析などに活用されてきました。
それに対し新たな動きとして、データを企業間で共有することで、ビジネスの改善・向上を進める動きが出てきています。
企業間・組織間にあった壁を取り除き、よりオープンに複数の企業がデータを起点としてつながることで新たなエコシステムが形成され、そこでは個々の企業では成しえなかったことが次々に進みます。

複数の組織間でデータを共有する際にはブロックチェーンが有効な手段となります。
ブロックチェーンネットワークにおいては、特定の管理者を置かず、参加者がそれぞれ対等な関係性となり、データを共有します。そのため、複数の利害関係者が集まりエコシステムを形成する際に使用する基盤技術として相性が良く、様々なプロジェクトで採用が進んでいます。

図1 ブロックチェーンによってつながるエコシステム

図1 ブロックチェーンによってつながるエコシステム

今回はデータ共有によりつながったエコシステムの一例として、イタリア銀行業界にブロックチェーンベースの共通プラットフォームを導入し、各行の業務効率を飛躍的に向上させた事例をご紹介します。

イタリア銀行業界におけるブロックチェーンプラットフォームの導入

  • 背景
    イタリア銀行業界では、日本でいう全銀ネットに相当するような、各銀行間を繋ぐ中央の集中型システムがありませんでした。そのため、各銀行ごとに独自のデータ形式・業務フローで他行との取引を処理し、記帳を管理していました。
  • 課題
    このような各組織における独自プロセス・データ形式は、組織間の連携を阻む要因となります。
    このイタリア銀行業界のケースでは、銀行間で双方の取引履歴を照合するリコンサイル業務が大きな問題となっていました。
    リコンサイル業務では、一方の銀行が持っている台帳と他方の銀行が持っている台帳を突合し、ミスマッチがあった場合には、双方の担当者同士で原因調査を行い解消を図ります。
    この際、双方が独自のデータ管理を行っていることから、原因の特定は非常に人手・時間がかかる作業でした。また、そのような負担が大きい業務であるため、月に一度の実施しかできない状況でした。
  • 原因
    この非効率な業務が長く残っていた原因は、双方の銀行が信頼する一つの情報ソースが無いことによります。
    双方が自身のもっている情報を正とし、相手方との不整合の有無・原因の調査を行う場合、拠り所となるものが無いため、その情報が作成されるまでの経緯やその後の推移をもとに個別に判断をしていく必要があります。これらは人の作業・判断を必要とする複雑なアナログプロセスでもあり、各行においては大きな負担となっていました。
  • 解決策
    このリコンサイル業務における非効率を解決するため、Spuntaプロジェクトが発足しました。
    NTTデータイタリアはイタリア銀行協会と共にこのプロジェクトを主導し、イタリアの全銀行を巻き込み、プロセスの標準化及びそれを実行するプラットフォームとして、分散台帳共有プラットフォームを構築しました。このプラットフォームの実装にはブロックチェーンを利用し、参加者が持つ台帳の同期、また台帳の改ざん耐性の向上を実現しています。
    共有台帳を持つことで、銀行間のトランザクションは瞬時に共有され、双方が合意している情報を積み上げていくことができます。この共有台帳が、双方が信頼できる単一の情報ソースとなり、銀行間の連携を容易にします。
図2ブロックチェーン導入前後

図2 ブロックチェーン導入前後

  • 効果
    これにより、銀行間における取引の透明性が向上し、リコンサイル業務においては、
    • ミスマッチ数の削減
    • ミスマッチ発生時の調査効率化
    • 月次でしか実施できなかったリコンサイル業務の日次化

を達成しました。

まとめ

今回紹介した事例では、企業内部に抱えていたデータを外部企業と共有するエコシステムを形成することで、参加者全体の業務効率を向上させることができました。

このように、ブロックチェーンを始めとするデジタル技術活用の進展と同時に、企業・業種をまたいだ新たなエコシステム形成が今後進むと考えられます。

またそこでは、組織の協調とシステムの連携が進むことで、今回の例のような既存業務の効率化だけでなく、新規ビジネスの創出も期待されます。
既存の枠組みを超える新たな連携を検討してみてはいかがでしょうか。

関連リンク
ブロックチェーン~NTTデータの考えるブロックチェーンの可能性~