はじめに

NTTデータでは、システム性能問題()の解決や性能アーキテクチャコンサルティングなどを行う専門チーム「まかせいのう」を組織化しています。本稿では、年間300件を超えるプロジェクトに対応していくために実践している人材育成について紹介していきます。

性能を担保する力(=性能競争力)がビジネス競争力と密接な関係となり、システム性能がより重要性を増し、性能問題を未然に防止するためのプロアクティブな発想がより重要になってきていることは記事「デジタル時代における性能競争戦略」で紹介しました。

上記の記事で紹介していますが、まかせいのうでは性能問題の発生を未然に防ぐための取り組みを進めています。
起きてしまった性能問題を迅速に解決するための問題解決力を備える人材はもちろん重要ですし、まかせいのうの強みでもありますが、プロアクティブな対策を立案し実践していく力を備える「性能人材」がより重要であると考えています。
この「性能人材」をどう育成しているのか、その秘訣の一端をご紹介したいと思います。

性能人材育成のポイント

まず、稼働するシステムやサービスの性能問題の発生を防ぐためには、機能品質と同様に、設計から試験に至る一連のプロセスを実行・管理していくことが基本となります。(設計工程での性能の作り込み(性能設計)、精度の高いパフォーマンステスト、問題発生を事前/迅速に検知するためのモニタリング設計 etc..)

システム開発の各工程で性能品質を担保するための様々な対策を立案し実践していくためには、システムの原理原則の理解、開発手法の理解、個別プロダクトの知識・知見を備える必要がありますがそれだけでは足りません。いきなり核心をお伝えしてしまいますが、「性能問題解決」が性能人材育成の根底にあります。

性能問題を起こさないシステムを考えるためには、なぜその問題が起きるのかを知る必要があります。過去10年以上にわたり多くの性能問題解決を行ってきた中で言えることは、性能問題のほとんどが設計段階で作りこまれている、つまり設計段階で未然に防ぐことができたケースがほとんどである、ということです。

まかせいのうでは性能問題解決にあたり、以下の7つの技術とプロセスを定義し、それぞれの技術について多くの問題解決対応から得たノウハウを蓄積・整備・活用しています。

図1:性能問題解決における7つの技術

図1:性能問題解決における7つの技術

ここでは上図の7番目の再発防止策を講じるプロセスがもっとも重要になります。このプロセスを実際の問題解決の現場で繰り返すことで、設計フェーズでのアンチパターンを理解し、性能問題を未然に防ぐための対策を引き出しとして持てるようになります。

まかせいのうでは、年間約300件の性能に関する案件のうち100件超の性能問題解決についてのご相談・ご依頼をもらっています。そうした性能問題解決の現場において、上図の技術をガイドラインとして体系化しOFFJTでの育成に活かすことに加え、どうすれば性能問題を未然に防ぐことができるのかを繰り返し考える機会を育成の場として作り出すことでプロアクティブな発想を持つ人材の育成を行っています。

図2:まかせいのうの育成ロードマップ

図2:まかせいのうの育成ロードマップ

DX時代における性能人材の育成

性能問題解決の現場が育成の根本となっていることをお伝えしました。これはまかせいのう発足以来、変わらない強みとして育成に反映し続けています。

一方で、近年のデジタル化によりビジネス環境の変化が加速し、ビジネス要件が流動的になることで、技術的な要件の高度化、アーキテクチャの複雑化、要素技術の多様化など性能品質を確保するために越えなければいけない障壁が増えてきています。性能人材の育成においてもこれらに対応するためのアジリティが求められるようになってきました。

この課題に対して我々は以下の2つのアプローチで育成の高速化を図っています。

  • モデル化可能なタスクはすべて自動化
    性能試験準備・実施、問題切り分け・解析、レポーティングなど、繰り返し実行するモデル化可能な作業を徹底的に自動化・効率化することで、性能問題の詳細解析や原因仮説・対策立案など人の思考を伴うタスクに注力した育成を行っています。

  • 性能問題解決事例やアーキテクチャ検討・設計事例を集約・共有
    アーキテクチャの複雑化や要素技術の多様化が進み、新たなアーキテクチャ、新たなサービスに起因した性能問題も見られるようになってきました。新たな性能問題に対応していくためには個人での知見獲得には限界がありますし、決まった型だけでは対応しきれない状況になってきています。こういった課題に対し、電子カルテのように症例を蓄積し共有することで類似症例から解決の糸口を見つけたり、根本原因の共通項を見出せるような仕組みを構築しようとしており、症例研究などを通して人材育成にも活用していきたいと考えています。

上記取り組みの詳細は別の機会にて紹介できればと思いますが、いずれも多数の性能案件の中で得られるナレッジを活用しエコシステム化することで性能人材の高速育成につなげようとしています。
また、蓄積した多数の事例・症例を横断的にAI学習させ、問題発生のパターンを見出し自動で解析を行う取り組みも計画しており、ナレッジ蓄積・共有のエコシステムを強化することで、グローバルを含めたスケーラブルな人材育成の実現を目論んでいます。

最後に

今回は、性能専門組織であるまかせいのうの性能人材育成の秘訣を紹介させていただきました。
今後、性能を担保する力(=性能競争力)がビジネス競争力の原動力になってくると考えています。性能競争力を備える人材=プロアクティブに性能品質を担保する対策を立案し実践できる人材の需要も拡大していくと想定しています。
こうした需要に応えるため、性能専門組織の強みである年間300件を超える性能案件の中で得られるナレッジを活かし武器として鍛え、性能人材の育成につなげることで、さらなる短期間・効率的な育成の実現にチャレンジしていきたいと思います。

※システム性能問題
レスポンスタイムやスループットといったシステム性能に関する要件が年々厳しくなってきており、システムによっては、性能が要件を十分に満たせないことによってビジネスに多大な損失をもたらす場合があります。こうしたシステムにおける性能問題の解決や未然防止のため、まかせいのうではアーキテクチャデザインからフィージビリティ検証、性能設計、性能試験、チューニングまで一気通貫で対応しています。

関連リンク
まかせいのう公式ページ