前回は、
「新しい資金調達/投資の仕組み:セキュリティー(証券)トークンって何!?(前編)」と題し、セキュリティートークンの概念および事例の説明を中心に解説しました。
セキュリティートークンは、その概念が生まれたのが2019年頃であり、新しくまだまだ発展中のものとなっています。現時点の事例だけではセキュリティートークンの全体像の解説としては不足しており、本稿では、セキュリティートークンの未来の形(TO-BE)、現在の形(AS-IS)、現在の形(AS-IS)から未来の形にどのように発展してゆくのかを解説していきたいと思います。
セキュリティートークンの未来の形(TO-BE像)
非上場株式に対する投資
セキュリティートークンにより非上場株式などの現状、一般投資家がアクセスしづらい投資対象にアクセスできるようになることが期待されています。
非上場なのに、株が買えるというのは、一見矛盾して聞こえますが、ここでの非上場とは、東証などの一般投資家がアクセスできる株式取引所における取り扱いがないことを指しています。
非上場株式の購入のメインプレイヤーは、ベンチャーキャピタル(以下VC)等の機関投資家でした。
一方で、企業価値の向上幅※1でみると、Facebookの場合は、上場前に約700倍程企業価値が向上したのに対し、上場後は約13倍程度に留まります。Airbnbは、上場後のcovit-19の影響もあるかと思いますが、約1100倍 対 約1倍ほどの開きがあります。※2
※1:上場前の企業価値向上は、シリーズAファンディングから、IPOまでの企業価値の向上率で測っている
※2:参考サイト
https://techcrunch.com/2011/01/10/facebook-5/
https://www.cbinsights.com/research/airbnb-strategy-teardown-expert-intelligence
つまり、非上場株式はIPO以降の上場株式に比較し、より多くのキャピタルゲインを得られる可能性があるといえます。現状の一般投資家が非上場株にアクセスしづらい状態は、一般投資家の投資機会を逸失させている不平等状態ともいえます。(一方で、倒産の可能性もあり、非上場株式を購入する際には、それ相応のリスクも受け入れる必要はあります)
非上場株式と同じく、機関投資家しかアクセスしづらい投資対象は複数あります。(地方債、一部の社債等)
一般投資家がアクセスしづらい理由は主に、
- 電子化がされておらず、購入できるプラットフォームが整備されていない
- 各国の規制にて一般投資家の購入が制限されている
があります。
セキュリティートークンは、以下の技術的特性を備えており、①を解決することができる一つの手段となりえます。(下表)
表:セキュリティートークンの技術的特性と、電子取引実現のための寄与ポイント
電子化自体は、セキュリティートークンでなくとも実現は可能ですが、上記の通り「特性としてデフォルトで備えている」ために、他の方式と比較して安価に実現でき、電子化の有力方式となりえます。
DvP決済
セキュリティートークンにより、DvP決済の実現も期待されています。
DvP決済とは、Delivery versus Paymentの略で、証券の引き渡しと、決済資金の引き渡しが同時に行われることを意味しています。
セキュリティートークンは、スマートコントラクトと暗号資産(仮想通貨)により、DvP決済が技術的に実現できます。
一方、現状の証券取引では主に、T+2と呼ばれ取引約定してから2営業日後に証券の引き渡しがされており、決済リスクをはらんでいます。
流動性の向上
セキュリティートークンにより、証券の流動性向上も期待されています。
セキュリティートークンは、
- 証券の小口化がしやすいこと(小口化コストが比較的かからないため)
- 海外投資家を対象にしやすいこと(コンプライアンスチェックコストが比較的かからないため)
- 取引市場を24時間オープンにすることが可能であること(DvPやスマートコントラクト処理により、バッチ処理の必要性が減るため)
等により、流動性の向上に寄与することを期待されています。
証券の流動性の向上は、いつでも換金できる安心感につながり、資金調達側、投資家双方にとってのメリットにつながります。
セキュリティートークンの未来の世界観
上記を実現した世界観のイメージとしては、下図のような形です。(筆者のイメージです)
図:セキュリティートークンの未来系のイメージ例(筆者にて作成)
セキュリティートークンの未来系のイメージ例の説明
- グローバルに各国の証券市場にアクセス
各国の投資家は、KYCと適格性のチェックを各国の認証機関より取得した上で、グローバルに各国の証券市場にアクセスできます。 - 適格性チェック
発行市場、流通市場において、投資家が証券を購入する際には、スマートコントラクトにより、その投資家が購入する資格があるかを自動でチェックします。 - 流通
流通は、パブリックブロックチェーンに接続することで、グローバルに流通が可能になります。ここでもスマートコントラクトによる移転時の適格性チェックにより、該当証券の流通を許可していない国や、適格性に満たない投資家へは移転されないようコントロールされます。 - 決済
Fiat通貨と連動するステーブルコインにより決済され、DvPを実現します。 - 利金支払、償還
自由に二次流通していても、期日などの条件を満たしたセキュリティートークンの利金支払や償還はスマートコントラクトにより、保有者に対して自動でステーブルコインで支払われます。
セキュリティートークンの現在地点(AS-IS像)
上記TO-BEの世界観がすぐに実現するかというと、そうではありません。
ハードルとなっているのは、各国の規制です。
ここで各規制の詳細については割愛しますが、例えば日本においては、
- 日本にはアメリカでいうRegulation A+のような制度がないため、IPO前の株式を一般投資家が購入するハードルが高い
- 有価証券の決済手段として、ステーブルコインを使った決済のハードルが高い(ステーブルコインの法的解釈の整理がされきっておらず、実質的に決済に利用することは現状難しい)
- セキュリティートークンのPTSにおいて、PTSにおける取引額割合に関する規制がネックになる可能性
等々があります。
日本では、伝統的有価証券については金融商品取引法にて、不動産については不動産特定共同事業法にて取引のルールが定められていますが、セキュリティートークンをビジネスとして発展させるためには、関連法含めて改めて必要な法改正ポイントを議論・整理し、必要性を訴えていくことが今後必要になってくるかと思います。
今後のセキュリティートークンビジネスの発展の仕方
現状の規制に準拠しつつ、将来の規制の変化に柔軟に対応できるシステム・プラットフォームを作ることが肝要と考えます。規制が変化してから動き始めると、世界から取り残されてしまうでしょう。
まずは現状の規制の中でできることからスモールスタートし、規制の変化に対応しながら徐々にセキュリティートークンのメリットを体現するプラットフォームに育ててゆくことで、セキュリティートークンビジネスのリーディングができると考えます。
ただし、これには以下にあげる複数の難易度の高いポイントをクリアする必要があり、容易なものではありません。
- ブロックチェーン基盤開発に関するケイパビリティー
- 将来拡張性を考慮したアーキテクチャ設計
- 既存アセット、ソリューションの有効活用
- スマートコントラクト開発
- 日本の規制に対するロビイング
NTTデータでは、Securitize社との共同セキュリティートークンソリューションとして、BlockTrace®for Security Tokenを展開しています。
セキュリティートークンの先行市場であるアメリカで育っているSecuritizeのソリューションを有効活用しつつ、NTTデータのケイパビリティー・アセットを組み合わせることで、セキュリティートークンソリューションを展開し、セキュリティートークンビジネスの発展に寄与していきます。
関連リンク
BlockTrace® for Security Tokenについて
・https://www.nttdata.com/jp/ja/news/services_info/2021/031600/
・ブロックチェーン~NTTデータの考えるブロックチェーンの可能性~