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(前編)新しい資金調達/投資の仕組みセキュリティー(証券)トークンって何!?

突然ですが皆さんは、「投資」していますか?
日本人は、現金信仰傾向があり、欧米と比較して、現金・預金で保管する割合が高いと言われています。(下図)
理由は、様々あるかと思いますが、「投資しようと思えるような魅力を感じる投資商品が見当たらない(と感じる)」という点も理由の一つであるかと思います。
本稿は、そんなこれまで「投資」を敬遠していた人達も引き付けるような魅力ある投資商品が生まれる可能性を秘めた仕組みとして、「セキュリティー(証券)トークン」をご紹介したいと思います。

出典: 「資金循環の日米欧比較」日本銀行調査統計局(2020年8月21日)

セキュリティー(証券)トークンとは

セキュリティートークンとは何でしょうか?この言葉に馴染みがない方が想像するのは、「セキュリティー向上のためのワンタイムパスワード」等かと思いますが、全く違います。以下で、「セキュリティー」と「トークン」に分解して説明します。

一般的に「セキュリティー」と言って想像するのは、「防犯」や「安全」などのイメージかと思いますが、セキュリティートークンの文脈では違います。セキュリティートークンにおける「セキュリティー」は、株や債券などの「証券」を意味しています。(例えば、某証券会社の英名は「・・・ Securities Co.,Ltd.」等です。セキュリティーという単語が社名に入っています。)

一般的に「トークン」と言って想像するのは、「ワンタイムパスワード」かと思いますが、セキュリティートークンの文脈ではこちらも違います。セキュリティートークンにおける「トークン」は、ブロックチェーン上で発行・管理される「価値や権利を表象するデジタルデータ」を指します。※1
表象する対象は多岐にわたり、通貨を表象する場合、トークンは暗号資産(仮想通貨)となり、数量を限定したデジタルアートを表象する場合は、昨今話題となっているNFT(Non Fungible Token)となります。

上記「セキュリティー」と「トークン」をつなぎ合わせると、「セキュリティートークン」は、「ブロックチェーン上で発行・管理される、証券を表象するデジタルデータ」となります。
もう少し柔らかく言うと、「株や社債等の証券を、ブロックチェーン上で発行・管理されるポイントのような概念(トークン)で表すことで、デジタル管理を実現するもの」となります。

※1:現状、「トークン」の定義は厳密にコンセンサスが取れたものはありませんが、上記のように本稿では定義します。

セキュリティートークンの定義

以下の図は、一般社団法人日本セキュリティトークン協会(JSTA)が公開しているセキュリティートークンの定義となっています。

出典:「セキュリティトークンの定義」一般社団法人日本セキュリティトークン協会

出典:「セキュリティトークンの定義」一般社団法人日本セキュリティトークン協会
STの定義とJSTAのカバレッジ

セキュリティートークンの定義は、厳密にコンセンサスが取れたものはありませんが、JSTAでは、上図のように三段階で定義しています。

  • 「金商法上のセキュリティートークン」は、金融商品取引法上で定義される伝統的な有価証券(株や社債などの一項有価証券および、集団投資スキーム等の二項有価証券)をトークン化の対象としたものです。
  • 「一般的なセキュリティートークン」は、上記に加えて、不動産小口化商品(不動産特定共同事業法に基づく出資持分)をトークン化対象にしたものとなります。
  • 「広義のセキュリティートークン」は、上記に加え、ゴルフ会員権や、ワインの所有権等、様々な権利をトークン化対象としたものです。

セキュリティートークンは誰にとって何が嬉しいものなのか

セキュリティートークンの概念について、簡単にご紹介したところで、ここで「それって、結局、誰にとって何が嬉しいの?」という疑問が湧く方もいるかと思います。
この疑問に対する端的かつシンプルな答えとしては、

  • 発行体(証券を発行する組織/個人)にとって、現状より資金調達がしやすくなることが嬉しい
  • 投資家にとって、現状より投資対象選択肢が増えることが嬉しい

となります。(その他、副次的なメリットもありますが、ここでは割愛します)

以下、セキュリティートークンの事例を紹介する中で、「セキュリティートークンのメリット(誰にとって何が嬉しいのか)」についても補足しながら説明したいと思います。

事例紹介

一般投資家向け未上場株セキュリティートークンオファリング(STO)の実施事例

2021年4月、アメリカのExodus社が、一般投資家向けにトークン化した未上場株を発行するセキュリティートークンオファリング(STO)を実施することを発表しました。
Real Security Tokens are Here

アメリカには、Regulation A+と呼ばれる、一般投資家でもIPO前の未上場株を購入できる制度があります。未上場株は、飛躍的な成長のポテンシャルを持ったベンチャー企業が資金の調達により成長のレバレッジをかけるための資金調達/投資の仕組みであり、狙い通り投資先の企業が飛躍的な成長をすれば、投資リターンも同じく飛躍的に大きくなります。一方で、上場していないため、買取先を見つけることが難しく、出口戦略が立てづらいというデメリットもありました。
未上場株をセキュリティートークン化した場合、伝統的な証券取引市場での取り扱いがなくとも、ブロックチェーン上で個人間の取引をすることが技術的には可能であり、これが上記デメリットを打ち消すことが期待されています。

本事例は、上記Regulation A+の制度の配下でのIPO前の未上場株のセキュリティートークンオファリング(STO)を実施しています。
ブロックチェーンベースでのATS(私設取引所)への接続も計画しており、そうすればまさに上記メリットを実現したセキュリティートークンとなります。

それ以外にも、

  • 決済方法:暗号資産(USDC/BTC/ETH)による決済(DvP決済※2につながる)
  • スマートコントラクトによる、コンプライアンスの自動制御の実施(コンプライアンス制御コストの低減)

を実現しており、ブロックチェーンベースのセキュリティートークンならではの機能を比較的体現できているものとなっています。

※2: DvP決済:Delivery versus Paymentの略であり、証券の受け渡しと決済が同時に実施されることを指す。現在、有価証券を売買した際、決済日と受け渡し日にはずれが発生しており、決済リスクをはらんでいる。

不動産小口化商品をトークン化対象とした事例

不動産小口化商品(不動産特定共同事業の出資持分)をトークン化対象とした事例としては、株式会社LIFULLとSecuritize社がSTOプラットフォームを提供し、エンジョイワークス社が運営するクラウドファンディングプラットフォームにより、セキュリティートークンを販売し、資金調達した事例があります。LIFULLニュースリリース

これまでも、不動産特定共同事業の出資持分をクラウドファンディングプラットフォームで販売する例はありましたが、譲渡における手続きが複雑なため、投資家同士のセカンダリー取引が困難であり、投資家からも投資対象候補になりづらいという課題がありました。
本STOでは、投資家同士のセキュリティートークンの移転(二次流通)も可能とするものであり、上記課題の解決を図っています。

出典:LIFULLニュースリリースより

出典:LIFULLニュースリリースより

NBA選手の年俸を債券化し、トークン化対象とした事例

株や社債などの伝統的有価証券や、不動産以外の領域のセキュリティートークン事例として、様々なユニークな事例があります。
2020年、アメリカのプロバスケットボールリーグ(NBA)に所属する選手が、自身の年俸を債券化し、STOとして売り出しました。
Spencer Dinwiddie Launching Digital Token Next Week, Discusses NBA’s Threat To Terminate His Contract

このセキュリティートークンを購入した投資家は、3年トータルで4.95%の利息を月次に分割して受け取ることができ、償還条件を満たした上で償還時期がくれば、投資原資も回収できます。
「選手のファンが選手の年俸債券に対する投資をする」というこれまでになかった形をとることにより、以下のような双方にとってのメリットを実現できます。

■売り出し側(選手)

  • 契約年俸が振り込まれる前に、資金を得ることができ、練習環境等の自己投資に回すことができる
  • ファンとのエンゲージメント向上(該当セキュリティートークンの保持者≒ファンクラブ会員と見なしてファンサービスができる)

■投資家側(ファン)

  • 好きな選手に対して投資をするという新しい概念
  • 投げ銭とは違い、「債券に対する投資」のため資金を回収できる可能性が比較的高い
  • 選手からのファンサービス

上記事例は、必ずしもセキュリティートークン化しなければ実現できないという例ではありませんが、(セキュリティートークンは技術的に二次流通性を確保しやすいという特性を備えるため)出口戦略が立てやすく、証券としての商品魅力を向上させるという点でメリットがあるかと思います。(ただし、本事例で二次流通までさせているかは不明)

今回は、「新しい資金調達/投資の仕組み:セキュリティー(証券)トークンって何!?(前編)」と題して、セキュリティートークンの概念のご紹介、事例のご紹介をしました。

後編について

「後編」では、以下のアジェンダ構成で、解説を続けたいと思います。

  • セキュリティートークンの未来の形(TO-BE)
  • セキュリティートークンの現在地点(AS-IS)
  • セキュリティートークンの今後の発展の仕方について

「(後編)新しい資金調達/投資の仕組み:セキュリティー(証券)トークンって何!?」

関連リンク
BlockTrace® for Security Tokenについて
NTTデータは、Securitize社との共同セキュリティートークンソリューションとして
BlockTrace® for Security Tokenを展開しています。
https://www.nttdata.com/jp/ja/news/services_info/2021/031600/
ブロックチェーン~NTTデータの考えるブロックチェーンの可能性~

大久保 潤

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デジタルテクノロジーディレクター®
金融業界や自動車業界におけるブロックチェーンを活用したビジネス創出を推進中。
CRMやSFA等のエンタープライズSaaS製品の活用開発経験を活かし、直近ではセキュリティートークンSaaSソリューションであるSecuritizeプラットフォームの活用開発・導入(BlockTrace® for Security Token導入)にも従事。

(後編)新しい資金調達/投資の仕組みセキュリティー(証券)トークンって何!?

コロナ禍に企業がとるべきIT戦略とニューノーマルを実現するゼロトラストの世界

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