テレワークで顕在化した非同期コミュニケーションの限界、手は尽くされた?
コロナ禍を機に多くの企業がテレワークを導入しました。また、そういった企業の多くはテレワークに対して継続・拡大の意思を示しています[1]。学習的にも、テレワークが個人のアウトカムに有益な影響を与えると示唆する研究結果もあることから[2]、場所に縛られない働き方へのシフトは不可逆的なトレンドと言えます。したがって、テレワークにおける働き方の課題を解消しテレワーク時代の最適な働き方を確立することが企業にとって重要となります。
従来のオフィス勤務と比較してテレワークそのものが働き方の一つとして捉えられることがありますが、本当にそうでしょうか。テレワークとは労働環境の一形態であり、働き方の一部しか表していません。働き方というものを広く捉えるには、コミュニケーションや業務プロセスにも目を向けるべきと私は考えています。
企業内コミュニケーションに目を向けると、社員の大半がテレワークに移行した企業では、ビジネスチャット等の非同期コミュニケーションの占める割合が大きくなりました。このような状況で一種の「やりづらさ」を感じている方も多いのではないでしょうか。オフィス勤務時代には目や耳から自ずと入ってきた情報が、一切入ってこなくなりました。いわゆる「気配り型」の人には、とてもやりづらい世界になりました。
とはいえ、悪いことばかりではありません。企業内コミュニケーションにおいてビジネスチャットの重要度が上がったということは、ビジネスチャットを分析することで企業のコミュニケーション特性を捉えられる状況になったということです。
本稿では「ビジネスチャットに蓄積されたコミュニケーションに関するデータを、職場の問題発見や人材育成に活かすアイディア」を紹介します。
参考:
[1] 『多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)結果報告書』, 東京都産業労働局, 2021年3月
[2] 『How to Make Your Hybrid Office More Creative』, Diamond Harvard Business Review, 2021年8月
プロジェクトチームの運営はうまくいっているか?
当社はシステムインテグレーションを事業の一つにしており、毎年数多くのプロジェクトが発足します。当社ではMicrosoft Teamsが全社的に導入されていていることもあり、プロジェクト発足に伴い組織横断で「チーム」と呼ばれるコミュニケーションスペースが作成されます。チームにはプロジェクトマネージャーやチームリーダー、メンバーといった様々な関係者が所属します。
チーム内のコミュニケーションがうまくいかないことも当然あります。例えば、業務を管理する立場のプロジェクトマネージャー層やチームリーダー層からは次のような声を聞くことがあります。
- 自分が送ったメッセージに対してメンバーから反応がない。メッセージを見ているのか、見落としているのか、判別できない
- チームメンバー同士が、自分の目の届かないプライベートチャットでコミュニケーションをとっているようで、議論の過程が見えない
- 状況確認のつもりでメンバーにメッセージを送ったところ、催促していると思われてしまった。その結果、メンバーからすぐに返答が返ってこず、だいぶ後に作業が終わってから報告が上がってきた
こうした状況は、コミュニケーションコストの増大や意思決定スピードの遅延、問題発見の遅れなど、様々な問題を引き起こします。いわゆる、イノベーションの生まれやすい「オープン」な組織とは程遠い状態です。
上記のようなマネージャー層・リーダー層が抱える課題は、当事者が解決できていないからこそ発生しています。また、メンバーがコミュニケーションに問題を感じている一方でリーダーが気づいていない場合もあるでしょう。そのようなケースでは、第三者が客観的に問題を検出できるようなアプローチが必要です。
幸い、上記のようなコミュニケーションの問題は、Microsoft Teamsのメッセージを分析することで検出できそうです。「誰が誰に対してメッセージを送った」というデータを元にグラフ(ネットワーク)を構成し、チーム全体におけるコミュニケーションの偏りを数値化したり、他者との繋がりの少ないメンバーを抽出したりすることで、コミュニケーション不全の兆候を検出できます。そのほかにも、Microsoft Teamsのメッセージを分析することで、リプライやリアクション(「いいね!」など)に要した時間なども可視化できるため、そのような別の観点からもコミュニケーション不全の兆候を検出できます。
当社でも、こうした分析をプロジェクト運営に活かそうとする試みが実際に始まっています。

自発性を定量化して社員の育成に活かす
人材育成の面でもコミュニケーションのデータを活用する案が考えられます。例えば、人材像の定量化です。企業が求める人材像は一般に定性的な言葉で語られることが多いですが、定量化を試みる余地があります。定量化は、評価に説得力を持たせるために重要です。
例えば、理想的な人材像として「自発性の高い社員」という人材像を設定したとき、社員の自発性はどうやって定量化すればよいでしょうか。これについては、あくまでも一つの案ですが、「社員が自ら送ったメッセージの数」によって、社員の自発性を間接的に測る案があります。測定した値は、その企業における役職別、職種別の傾向とともに社員本人に提示することで、社員本人に気づきを与えたり将来の目標設定に役立ててもらったりするといった活用が考えられます。
「社員が自ら送ったメッセージの数」は、社員の行動として表出した自発性のほんの一部しか表さないため、人事評価に使うことは慎重な議論が求められますし、よいアイディアとは言えないでしょう。ただ、そういった性質のデータであることに注意して使えば、人材育成に有効に活用することが可能です。
まとめ
本稿では、コミュニケーションを働き方の一部と捉え、コミュニケーションデータの分析をコミュニケーションの問題発見や人材育成の高度化に繋げるアイディアを紹介しました。こうした客観的なデータを、アンケートのような主観的データと組み合わせて分析することで、どちらか一方だけでは得られない深い洞察が得られます。既に社員へのアンケート調査を実施されている企業は多いと思いますが、こうしたデータと組み合わせて分析をしてみてはいかがでしょうか。
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