1.導入
前編後編の2回にわたり、ご紹介している生成AIの業務活用を深化させるための現場のリアルな実践術。
今回の後編では、生成AIの活用ユースケースとして浸透し始めているアイディエーションに関する事例を紹介します。
2.生成AIの業務活用を深化させるポイント
改めておさらいですが、生成AIの業務活用を深化させるには、生成AIの特性を踏まえて上手く使いこなせることが重要であり、①生成AIへの指示(プロンプト)②生成AIに活用する社内データの二つのポイントがあることをご紹介しました。
また、ポイントは二つですが、指示の意図や内容のゆらぎにより正しく理解できないことや、社内データが定型化されておらず必要情報を抽出しにくい中身になっている等の現場課題があり、生成AIをまだまだ上手く使いこなせていない状況があることもご紹介しました。
今回ご紹介するアイディエーションへの適用では、これらの現場課題がより顕在化する事例です。
また、この事例は、人材流動化による人手不足、属人化による世代交代の難しさといった社会情勢が背景にある課題であり、社内ナレッジの活用やそれを元にしたアイディア創出へ挑戦する一歩進んだ取組みでもあります。
生成AIと共存する新たな働き方として、“業務活用の深化”の姿を目指すための羅針盤になれば幸いです。
3.事例2:顧客Bにおける次回会議に向けた顧客提案テーマ案生成
本事例では、社内の提案力向上を目指すため、顧客提案テーマ案を作成する検証を行いました。
ただし、生成AIによるアイディエーションだと一般論に留まってしまうため、社内に蓄積された顧客との会議メモを、次回会議の顧客提案に活用して、顧客に適した提案テーマ案を作成する生成AIチャットボットのシステム検証を行いました。
普及する一般的なRAG(Retrieval Augmented Generation、外部データから情報を検索して回答を生成する仕組み)のアプローチは、検索結果を利用して回答を生成しています。
そのため、社内規定FAQのように明確な正解データがある時には精度の高い回答につながり、効果的です。
しかし、本事例のような提案テーマ案の場合、正解が人によって異なり、かつ統一された正解が存在しない難しさがあります。
そのような難しさがある中で、いかに納得性の高い回答を出せるかを検証しました。
・現場の課題
納得性の高い情報として、顧客との過去の会議メモを元に回答を作成する方針としましたが、実際のデータは、会議目的に対して異なる話をしていたりするケースや主語述語のない文章等もあり、会議メモが生成AIに理解されにくく、検索しにくい記載になっていました。一般的にはテキストデータを生成AIが理解できる数値情報に変換するエンベディングという処理を施すことで、インプットデータにどのような情報があるかを検索できるようにし、生成AIがインプットデータを活用します。
しかし、インプットデータとして活用する社内データが上記のような利用価値の高い情報と低い情報が混在している状態の場合、利用価値の低い情報に影響を受けてしまい、正しい意味やキーワードを抽出できなくなります。例えば、商品・サービスがテーマの場合、その課題を伺うために想定されるのは、品質、安全、カスタマーサポート等の商品・サービスを中心に連想されるキーワードが頭に浮かぶのではないでしょうか。
一方、この事例では、他社の特定製品の話が出ており、その製品名の固有名詞が整理されてしまっていました。自社製品やその競合製品であれば問題ないのですが、それにも関係しない雑談で出ていると思われる固有名詞でした。そのため、社内データを元にしたエンベディングでは、生成AIから提案テーマとして活用できそうな情報が抽出されず、示唆文が間違った切り口で出力され、有効な回答が出にくい状況になっていました。
また、上記のような状況のため、生成AIに回答の出力指示を行うプロンプトエンジニアリングでの対処として、回答例を指示することや、活用できる情報にどのようなものがあるかのヒントとなる定義情報を追加する手法等も取り入れましたが、今度はその指示に生成AIが流されてしまい、その例に合致するテーマが色濃く抽出されてしまい、意図した回答を得られない状況でした。
そのため、本事例では生成AIを使いこなす二つのポイントである、プロンプトとインプットデータを意識してはいたものの、これらの内容の乖離に対して、対処を考える必要がありました。
・対処の方針
そのため、本事例ではプロンプトとインプットデータの間の乖離を埋める仕掛けとして、利用価値の高い情報を活用できるようにチューニングした検索用の目次情報(インデックス)を作成しました。
具体的には、提案で扱いたいビジネステーマをある程度人間が定義し、それを細分化して具体的な項目に分解をしました。
そして、その項目に対して連想されるキーワードを人間ではなく生成AIに創出させ、それを複数回行うことで連想ワードの網を広げました。さらに、現場感覚に合わせるため、有識者に現場で使うキーワードも追加してもらうことでチューニングを行いました。それに加え、生成AIに指示を出すプロンプトは、このチューニングした検索用の目次情報を参照させることによって利用価値の高い情報の抽出確率を高めるように実装しました。

今回のように、社内ナレッジ活用で生成AIを導入する場合、利用する社内データ、つまり社内ナレッジの品質が肝になります。
会議メモだから簡易に書いている記憶はないでしょうか。それは生成AIにとっては、ポイントが理解できない内容かもしれません。
4.まとめ
前編後編の2回にわたり、当社事例をご紹介しましたが、これらにおける共通点として、プロンプトデータ・インプットデータの形成が課題となっていました。そこで、生成AIに理解できるようなタグ付けや、情報の拡張をする対策を打っていました。
一方で、現場でよく使われるユースケースに対して、生成AIに理解される形でデータが整形されているケースは少ないと考えます。また、AIエージェントが登場しても、業務への深化において、どのような手順で・何を期待して動かすかは、やはり人の設計力にかかっています。業務への正しい落とし込みがあってこそ、本来の力が発揮されると考えます。
生成AIは新規技術のため、一気に大掛かりな導入を行うよりもスモールユースケースで導入効果を積み重ね、自社に適した適用方法を見極めてから全社展開する進め方が主流です。そのような進め方を踏まえると、生成AIで活用するデータがあらかじめ整形されて揃っている状況は稀であるため、今あるデータを目的に合わせて生成AIが理解できるように、いかに工夫して効率的に橋渡しを行うかが重要になります。
一工夫で料理がプロの味になるように、社内データも一工夫加えることで、生成AIをさらに業務に深く適用できるようになり、非生産的な作業の省力化やそれにより捻出される価値ある作業への集中と選択という新しいビジネス価値に繋げることが可能です。
