はじめに

我々デジタルテクノロジーディレクターは、企業様が抱えるDX推進の様々な課題解決をご支援させていただいています。
ここ数年、ご支援したプロジェクトを振り返ると「業務処理の効率化・省力化」や「業務プロセスの抜本的な改革・再設計」など、自社内に閉じた改革である「守りのDX」への取り組みは十分に進められているように思います。
一方で、本来のDXの狙いである「お客様への新たな価値創出」を行う「攻めのDX」への取り組みはこれからといった状況で、どのように進めてよいかわからないという声をいただきます。
この「攻めのDX」へシフトするために、どのような取り組みを社内で推進していくべきか。筆者の事例をもとに本記事で触れたいと思います。
(定義:「守りのDX」、「攻めのDX」https://www.nttdata-strategy.com/newsrelease/190820.html) 出典:株式会社NTTデータ経営研究所

まず、「攻めのDX」での成功とは?

「攻めのDX」の成功とはどのような状態といえるでしょうか?
「攻めのDX」はお客様へ新たな価値提供を目指すことから、結果として新たな収益が得られた状態、お客様の不満解決や喜ばれることの提供による顧客満足度が高い状態などが成功した状態となります。
いずれの状態においても、DXの手段となりえるデータやデジタル技術の活用ができたからといってそれは成功でないことは明確です。
まずはお客様を理解し、自身(自社・自部署)が新たに何の価値を提供できるか考えることが重要になります。

「攻めのDX」の取り組み実行STEP

「攻めのDX」に取り組む第一歩として、新たな価値提供となるサービスや製品を考える実行STEPは図①の通りです。
この実行STEPは目新しいものではなく、新規サービス・製品を考える際によく採用されるフレームワークです。
ですが実際にやってみると、サービスアイデアが全然出てこない場合や、自社よがりのサービスに偏ってしまって提供価値が低いサービスしか出てこないなどの課題がでてきます。
以降では、筆者がワークショップ形式で各STEPを推進した際の躓きやすいポイントと躓きの回避ポイントに触れていきたいと思います。

図①:新たな価値提供を考える実行STEP

STEP1 誰にどのような課題があるか?を考える

STEP1では、新たな提供価値を形成する要素を思いつく限り抽出します。
よく採用する要素軸は、「ビジネスキーワード」、「テクニカルキーワード」、「誰にどのような課題があるか?」、「自社・自部署の強み」、「自社・自部署方針」です。
軸の中で特に重要で抽出に時間をかけるべきは「誰にどのような課題があるか?」です。
「誰に」はターゲットとなるお客様が該当し、お客様の課題を解決することができればそれが新たな価値創出になりえるからです。
ここでの躓きポイントとしては、あまりにも抽象度が高い”誰”や”課題”を設定してしまうと、本質的な課題を捉えることができず解決の方向性が曖昧になってしまいます。

例えば、”誰”は「インフラ企業」、”課題”は「メンテナンス」のキーワードレベルではなく、「インフラ企業は、XXのインフラ設備のメンテナンス費用が大きく、利益を圧迫している」のようにフレーズ化します。
そうすることでメンテナンス費用を下げるためにはどうしたらよいか?について、解決するサービスを考えることができようになります。
あくまでもここの課題は仮説レベルでよい(STEP4の顧客インタビューで仮説検証するため)のですが、具体化できることに越したことはありません。
”誰”の部分は、自社や自部署が関連するお客様を可視化することや、関わりのあるお客様を参考にペルソナを立てると顧客のイメージ像が明確になります。
また、”課題”の部分は、リサーチ、カスタマージャーニーを描きペインの抽出、自身の経験から類推するといったアプローチをとることでより根拠のある仮設課題が立てられます。

図②:新たな提供価値を形成する要素抽出

STEP2 質より量を重視する

STEP2では、STEP1で並べた要素と要素を掛け合わせて、お客様の課題を解決する新規サービス・製品を思いつく限り抽出します。
ここでの躓きポイントは、新規サービス・製品アイデアの質にこだわりすぎることです。
ここでは「質より量」に重きを置き、量があるからこそ、その中に光るアイデアがあると考えることが大切です。
筆者がワークショップでSTEP2を推進した際は、アイデアを発想しやすくするための雰囲気づくりや、誰かのアイデアを2倍、3倍に膨らませるためのグランドルールを用意しました。
推進役が前もって参加者にグランドルールを伝えることで、あまり面識のない参加者同士でも安心して活発な意見交換ができるようになります。
【STEP2 グランドルール】

  • 一人で黙々と考えるのではなく、参加者で時間を決めて会話しながらアイデアを考える。
  • 誰かのアイデアを批判しない。良点発見。アイデアの良いところをほめる。
  • できるかどうかわからないアイデアを出す。HOWは誰かが考えてくれる。
  • 誰かのアイデアに便乗する。誰かのアイデアをヒントにアイデアを出す。

STEP3 評価への納得感を与える

STEP3では、STEP2で抽出された新規サービス・製品アイデアを評価軸に沿って評価し、STEP4に進むためのアイデアを絞り込みます。
STEP2段階では雑多なアイデアも数多くあるため、ビジネス化を考える上で、図③の通り「世の中のニーズ」軸、「実現性」軸でスコアリング評価することが一般的です。
なお、アイデア検討する上での前提条件を評価軸に加えるなどカスタマイズ可能です。
ここでの重要なポイントは、ワークショップに参加しているメンバが評価結果に対して納得感を得ることです。
納得感が得られずに次のSTEPに進んだ場合、やらされている感が出てしまい、いまいち検討に身が入らない状態になってしまいます。
このような事態を避け、恣意的な判断ではなく客観的な物差しで測るために、評価はワークショップ参加者でない第三者的有識者が実施するなど工夫が必要です。
特にニーズ軸を評価する場合の第三者的有識者は、自社・自部署の上位層によらず、幅広い業界動向の知見やニーズ調査を行う上でリサーチ能力に優れた方に評価いただくことをお勧めします。

図③:評価軸

最後に

「攻めのDX」の新たな価値創出(サービス・製品)を進める上で、どのような取り組みを社内で推進していくべきか。筆者の事例をともにご紹介いたしました。
「攻めのDX」へシフトするための進め方に悩んでいらっしゃる方は、ご紹介したSTEPや、推進のポイントをご参考にしてください。
さらに重要なことは、このSTEPを日常的に繰り返し実施し常にお客様の課題を解決し続けることです。
そうすることで「攻めのDX」における継続的な成功が得られることでしょう。