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伴走支援推進者がお届けする業務変革に向けた生成AI利活用の成功の秘訣とは?

はじめに

2022年、OpenAI社がローンチした「ChatGPT3.5」を皮切りに、自然言語で誰もが活用できるチャット形式の生成AIが爆発的に広まりました。
生成精度の飛躍的向上や、画像・音声・動画も柔軟に処理できるマルチモーダル機能の拡充により、多くの企業が業務変革・ビジネス変革のツールとして生成AIを積極的に導入し始めています。
しかし、各企業が活用価値のあるユースケースを探索する中で、キラーユースケースを見出す難度は非常に高く、投資対効果が見えないという声も多く聞かれます。
本記事では、生成AI活用価値の向上に大きく寄与する『ユースケースごとの活用価値』および『利用ユーザ数・活用率』における3つのアプローチに焦点を当て、具体例を用いながらご紹介し、生成AIを活用した業務変革を如何にして推し進めていくべきか、解説いたします。

①業務課題を見極めながら、その活用価値を見出せるユースケースを企画する
②実際にサービスを利用し、生成AIやユースケースの効果・使い勝手を検証のうえ改善する
③利用者に生成AIを利活用してもらうための浸透施策を推進し、運用定着を図る

企画:業務課題の見極めと活用価値を見出す

いかに生成AIが優れた技術であったとしても、適用する業務課題をうまく見出さないと、期待する効果を得ることは難しいです。
弊社では以下のアプローチでアイディアの種を創ることを推奨しています。

生成AIは従来のAIと比べて「使い勝手が良い」ことが特徴です。
しかし、「これをしてほしい」という言葉の指示(=プロンプト)、利用するデータ、欲しているアウトプットなどを明確化しないと、効果を高めるには至りづらいです。
他方、単純に生成AIの他社のユースケースなどを起点に適用を検討したとしても、自社の既存業務で生じている課題感にフィットしないと、利用の浸透まで至らず、利用人数が伸び悩み、効果創出に至らない、といったことが多いです。
これらを踏まえると、自社の業務に詳しい人間などとともに、業務の標準的な流れやその中で生じる課題を明らかにしつつ、それに対して解決策を検討していくアプローチをとっていくことが、用途と実現手段の先鋭化/具体化に結びつく点で、より多く、かつ、質の高いアイディアを創出することに結びつきます。

また、創出したアイディアの種の投資対効果を高めるアプローチとして、スモールにスタートしていくことが大事となります。
そのためには以下のステップを踏むことをお勧めします。

投資対効果を高めるには、より多くの人に、より低コストで届けることが重要であり、利用導線・課題・実現方法などの単位で束ねた方が、より投資対効果を高めることに繋がります。
また、生成AIの創出の成熟度や持ち合わせているリソースにより、実現すべきユースケースの優先度は変わっていきます。
そのため、例えば利用価値/効果や実現性、利用対象者や適用業務など、ユースケースを評価する軸を設定しながら、意思決定者も交えて優先度を選定していく営みが重要となります。
最終的にはこれらの結果について、何の業務の、誰が、どのように生成AIを使い、いくらの投資対効果があるかを1つのドキュメントにまとめていくと、後々の可読性が高まり、同じ比較軸で評価を繰り返し行うことに繋がり、投資対効果の可視化にも結びつけられる点で良いです。

検証・改善:継続的な探索を通じて使いやすさと精度を高める

創出されたユースケースの利用価値を高めるためには、「使いやすさ」と「回答精度」の両方を向上させることが重要です。
ここでは、RAG(Retrieval-Augmented Generation)の仕組みを用いた文書検索システムを例に、利用価値向上に向けた具体的な取り組みについて紹介します。

1. 使いやすさを向上させる取り組み
生成AIの導入に際し、多くのユーザから「簡単に使いたい」「持っている知識を迅速に活用したい」といった要望が寄せられます。
これらのニーズに応えるためには、日常的に使用しているツールとの統合が欠かせません。
これにより、ユーザが慣れ親しんだ環境の中で、自然な流れで生成AIを活用できるようになります。

①日常ツールとの統合

生成AIをブラウザベースのUIだけでなく、Microsoft Teamsなど日常的に使用するツールと統合することで、ユーザが馴染みのある環境で生成AIを活用できるようになり、利用のハードルを大幅に下げることが可能となります。

②アクセスの容易化

社内ポータルサイトや業務に関連するWebサイトに生成AIへのリンクを設置することで、ユーザは普段訪れる場所から直接AIにアクセスできるため、心理的・物理的な障壁が低減することが可能となります。

③ユーザによる事前知識登録の自動化

運用者が管理していた事前知識を、ユーザ自身がSharePointなどのストレージに配置するだけで自動的に生成AIへ登録できる仕組みを構築することも効果的です。
これにより、ユーザが自分の業務に特化した知識を自由に取り込める環境が整います。

2. 回答精度を向上させる取り組み
生成AIを活用する上で、回答精度が低い状況ではユーザに信頼されず、継続的な利用には繋がりません。
回答精度が向上するような仕組みを、フロントエンドからバックエンドにわたって構築していくことが重要です。

①システムプロンプトの検討

期待する回答に応じて、システムプロンプトを設計することが重要です。
例えば、FAQチャットボットとして利用する場合には、質問に対して事前知識に基づいた回答を行い、事前知識に無い内容については一般知識ではなく、「分かりません」と回答するよう指定します。
このような設計により、ハルシネーションの発生を抑制する効果も期待できます。

②検索方式の選択肢提供

文書検索において、「ベクトル検索」「キーワード検索」「ハイブリッド検索」といった検索方式をユーザ側で選択できる仕組みを導入することで、異なるシナリオにおいて最適な検索結果を導くことが可能です。

③データの整理と前処理

利用する事前知識はテーマごとに整理し、適切な前処理を施した上でベクトル化・インデックス化することが重要です。
このように整理されたデータ管理は、無秩序に事前知識を投入する場合に比べて的確な検索結果を提供することに繋がります。

④継続的な精度向上化

過去の履歴を事前知識として再利用することは、精度を継続的に向上させることが期待できます。
例えば、有人チャットを併用したFAQチャットボットでは、有人チャットの対応履歴を自動収集し、事前知識として再利用することが可能です。

使いやすさの向上や回答精度の向上は相互に関連し、どちらが欠けても利用価値向上には繋がりません。これらの取り組みを探索的かつ継続的に実施することが重要です。

運用・定着:ユーザの成熟度に応じた打ち手を実行する

検証・改善プロセスを経て、精度向上が行われたサービスを如何にしてユーザに届け、普及定着させていくことができるのか、ADKARフレームワークを用いた変革推進のステップを通してご説明していきます。
また、現場を巻き込み、机上の空論ではない実践的なユースケースに昇華させる重要性についても言及します。
ADKARフレームワークとは、組織変革を進めるためのプロセスを5つのステップに分類したモデルです。変革を受け入れ、実行し、定着させるための体系的なアプローチであり、生成AIの利活用促進においても、本フレームワークを適用することで効果的に変革推進ができると考えています。
利活用を推進する際には、それぞれの変革段階に応じたアプローチを講じることが大事です。 そのためには各ステップで以下のように推進活動を行うことを推奨しています。

  1. Awareness(認知・理解)
    生成AIの概念や機能概要を理解してもらい、自身が利用できることを認知してもらうことが重要です。 具体的な施策としては、社内ポータルや専用コミュニティを立ち上げ認知度向上を図り、製品理解のための社内セミナーやワークショップといった研修を提供するといったことが効果的です。
    これにより、初期段階からの関心と支持を得ることができ、生成AIの基本的な知識を提供し、認識を高めることが可能です。
  2. Desire(動機づけ)
    生成AIを試してみたい、業務で実利用したいという意欲を高めることが目標です。
    自身の業務にどう活きるのか理解できていないことや、漠然とした抵抗感が活用を阻害することが多いため、社内での成功事例の共有や、生成AIの導入がもたらすポジティブな影響を強調することで、積極利用を促進できます。
  3. Knowledge(知識習得)
     生成AIの具体的な使い方や操作方法を理解させ、実業務での利活用をイメージさせてあげることが非常に重要です。
    アイディアソンやワークショップ形式で、業務の流れやその中で生じる課題を踏まえ、解決策を模索していくアプローチが有効となります。
    これにより、推進者としても、対象業務の理解を深めることにつながります。
    また、ユーザにとっても自身の抱える課題の中のどこに生成AIを活かせるのかの理解浸透から期待値コントロールにも繋げられます。
  4. Ability(活用・定着)
    業務で生成AIを活用する意識を持ち、生成AIの効果を最大化するためにユーザそれぞれが業務変革に向き合うことができるよう推進します。
    慣れ親しんだ従来通りの業務の仕方に戻ってしまう、成功体験や効果実感が薄く徐々に離脱してしまうという声も聞かれます。
    こういった課題に対しては、実践的なトレーニングの継続実施、社内コミュニティでのユースケースとその活用効果の発信、そして機能改善によるユーザビリティの向上によって下支えすると効果的です。
  5. Reinforcement(強化・改善)
    ユーザの意見を反映し、関与を促しながら改善サイクルを回すことが重要です。
    自身の業務で生じている課題感にフィットしないと、利用浸透まで至らず、利用人数が伸び悩み、ひいては効果創出に至らない、といったことが起こります。
    ユーザから定期的なフィードバックを収集し、改善サイクルを回すことが重要です。
    また、ユーザの関与を維持継続するための取り組みとして、成功事例の共有に対する称賛などを実施することが成功の秘訣です。
    本ステップは、検証してきたユースケースの投資対効果を可視化、評価することで、さらに洗練していくフェーズであり、現場のユーザの関与を強めることで、実際の業務に即した血の通ったサービス・ユースケースへと昇華させる重要なポイントとなります。

このように、企画→検証・改善→運用・定着のフェーズごとの課題や目指すべき状態を踏まえ、対応するアプローチをサイクリックに反復することで、生成AIの利活用を着実に推進することにつながると考えています。

まとめ

生成AIの活用は、企業の業務変革・ビジネス変革を推進する重要な取り組みです。
社員や顧客の行動を元にアイディアを発散させ、実際の利活用状況や検証結果を元に実現性を確かめながら、描いた理想像へと組み込むといったプロセスを繰り返すことで、活動が一層洗練され、アイディアを収斂させていくことに結びつきます。

投資対効果を最大化するための魔法の杖は存在しませんが、企画、検証・改善、運用・定着のサイクルを回し、生成AIの利活用を着実に進めていくことこそが、組織的な活用に導くための成功の鍵となります。

※記載されている会社名、 商品名、またはサービス名は、各社の登録商標または商標です。

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